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2019.10.17 Thu ロック編成のバックバンドと島津亜矢の覚悟 大阪新歌舞伎座コンサート

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 10月13日、大阪新歌舞伎座で開かれた島津亜矢のコンサートに行きました。
 わたしにとって2017年6月以来、約2年ぶりのコンサートで、その間に大きくブレイクした島津亜矢がどんなステージパフォーマンスを繰り広げるのか、期待を胸に会場に入りました。
 率直に言って様変わりの舞台設営にびっくりしました。わたしが2年前まで足繁く見てきたコンサートは演歌中心で、その中で何曲かをドレス姿で歌うのがお決まりでした。
 最近のテレビの音楽番組で絶賛されるポップス歌唱やアルバム「SINGER6」の発売、今年で3回目となる「SINGERコンサート」など、ポップスのボーカリストへと音楽表現の翼を広げる彼女ですから、少しは変化があると予想したものの、これほどまで思い切ったステージになっているとは思いませんでした。
 会場に入り、客席からステージを見てまずびっくりしたのが、緞帳が上がったままで、照明を落とした状態で編成バンドの立ち位置に合わせて機材がセットされていました。
 下手はピアノ、ギター2本、ベース、ドラムス、上手はサックス、トランペット、キーボード、シンセサイザー(正確ではないかも知れません)とロックやポップスでは当たり前のセットですが、これまでの演歌のステージとはちがい、ポップス対応のバンド編成でどんな歌を何曲歌うのか、またオープニング曲は何かとより一層の期待でわくわくしました。
 やがてバンドの演奏者がそれぞれの演奏位置に座り、しばらくして下手から島津亜矢が現れました。
 オープニング曲は「時代」でした。1975年、中島みゆきの2作目シングルとして発表されたこの曲は、「今はこんなに悲しくて涙もかれ果てて、もう二度と笑顔にはなれそうもないけど」と、ひとりの少女が背丈をこえるかなしみと絶望に打ちひしがれながら、「そんな時代もあったねと、いつか話せる日がくるわ」と時代の写し鏡に映る自分を励ます…、その再生と転生の物語を23歳でつくってしまった中島みゆきの歌人生がたどった旅はすでにこの歌によって暗示されていたのでしょう。
 彼女の歌は心の闇や切ない夢、はかない恋の地平に時代の匂いを漂わせ、それでも必死に生きようとするひとびとの応援歌となりました。そして同時代に阿久悠がめざした「新しい歌謡曲」が中島みゆきをはじめとするシンガーソングライターにしっかりとひきつがれることになった記念碑的な歌が「時代」だったと思います。
 この歌は数多くの歌手がカバーしてきましたが、島津亜矢も2013年でしたでしょうか、NHKの「BS日本のうた」で歌ったのが最初ではないかと思います。その時は心の奥に秘めたものを感じさせつつ、ニューミュージックのテイストで歌っていました。
 今回、坂本昌之の斬新なアレンジで生まれ変わった「時代」は専門的にはヴァースというのでしょうか、その中でも変則的で歌の冒頭部の一回しかメロデイーが出てこないため、その余韻を効果的にするためにアカペラで歌っていて、島津亜矢の歌唱力と声量に圧倒されます。それは衝撃的で、絶望とかなしみにあふれた歌詞と相まって昨年の紅白では絶賛の嵐となりました。これまでたくさんの歌い手さんが好んで歌ってきましたが、島津亜矢の新しい「時代」を聴いてしまったら、新たにカバーするのに少し勇気を必要とするかも知れません。
 その評価は賛否両論で、この歌を「語りの歌」ととらえるひとにはその歌い出しでひいてしまうかも知れませんが、「平成最後の紅白」というステージで、島津亜矢はいくつもの批判を引き受ける覚悟でこの歌を彼女のもう一つのオリジナル曲として歌ったのでした。
 それは同時に、演歌歌手・島津亜矢が日本を代表するボーカリストへの険しい道に踏み入れる覚悟をすることでもありました。

 一部はラストの「I Will Always Love You」まで、30分のステージでしたが、今の島津亜矢にとって、ちょうどいいバランスだったと思いました。これ以上短いと前のままですし、これ以上長いと演歌ファンが欲求不満になったことでしょう。
 それにしても、観客のほとんどは熱心な島津亜矢のファンの方々と思われますが、一部のステージでは「亜矢ちゃん!」という掛け声を自粛されていて、彼女はいいファンにめぐまれていると思いました。
 「SHALLOW」、「アイノチカラ」、「我がよき友よ」、「蘇州夜曲」などを見事に歌いましたが、その中で「リンダリンダ」、「行かないで」が特筆ものでした。
 「リンダリンダ」は伝説のパンクバンド、ザ・ブルーハーツのメジャーデビュー曲で、1987年の作品です。アルバム「SINGER6」にも収録されたパンクロックナンバーと島津亜矢と組み合わせは意外と思われるかも知れません。たしかに以前は横乗りのR&Bやソウルは得意とするものの、縦のりのロックは難しい印象でしたが、ロックバラードから練習し、今ではテンポの速いロックナンバーも歌いこなせるようになったのではないでしょうか。
 ただし、「リンダリンダ」に限らずですが、ザ・ブルーハーツの曲はとてもシンプルなロックでありながらボーカルの甲本ヒロトの個性があふれるかなりの難曲です。
 「ドブネズミみたいに美しくなりたい 写真には写らない美しさがあるから…」。
 最初テレビには出なかった彼らがたまたまテレビでこの歌を歌った時、そのストレートな歌詞とヒロトの激しい動きに初めはびっくりしたものの、高校生だった時にあこがれたシュールレアリズムの詩人、アンドレ・ブルトンの「美は痙攣的である、さもなくば存在しない」という言葉とリンクし、涙があふれたことを思い出します。
 ザ・ブルーハーツ、とくに甲本ヒロトの歌心と島津亜矢の歌心はとても共通しているとわたしは思います。彼の歌は純情で直接的、一見暴力的に見えて実はとても繊細で心優しいパンクロックの王道を行く歌で、たとえば「瞼の母」の番場の忠太郎、「大利根無情」の平手造酒、「一本刀土俵入り」の駒形茂平など、純な心を抱きながら世間の風にさらされ、自分が望まない方へと進むしかない宿命を背負って散っていく若者の心情を歌う島津亜矢と重なっています。
 もっとも、島津亜矢の「リンダリンダ」は高校を舞台に女子高校生バンドの青春を描いた2005年の山下敦弘監督の映画「リンダリンダリンダ」に近い歌唱で、観客席も一体となり、会場が大いに盛り上がりました。
 一方、「行かないで」は玉置浩二の歌ですが、島津亜矢が好んで歌ってきた玉置浩二のカバー曲の中でもっともすぐれた歌唱だと思いました。
 あくまでもわたしの好みと感じ方と断った上で、彼女がポップスを歌う時、かつて演歌を圧倒的な声量と歌唱力で席巻していた時のように、歌いすぎて絶唱型になってしまう危険をはらんでいると思っています。たしかにそれを喜ぶ人たちもたくさんいるとは思うのですが、今はとにかく自由にいろいろな歌を歌える喜びにひたっている時で、それを通り過ぎた後にはじめて、「徹子の部屋」で黒柳徹子から手渡された彼女のお母さんの手紙にあったように、日本を代表する歌手のひとりとして、世界の舞台で活躍できる時がやってくると信じています。「行かないで」の素晴らしい歌唱は、その一つの兆しだと思います。
 歌い込まれ、ますます進化していく「I Will Always Love You」の余韻を残して一部のステージが終わりました。
 30分の休憩をはさみ、演歌のステージとなる2部については次の記事とします。

2019島津亜矢「時代」2019

ザ・ブルーハーツ「リンダリンダ」

玉置浩二「行かないで」
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