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2019.08.20 Tue ホイットニーの波乱の人生の光と影、そして時代という大きな悲しみ 島津亜矢と「思い出のメロディー」

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 島津亜矢が8月17日放送のNHK「思い出のメロデイー」に出演し、「I Will Always Love You」を歌いました。
1969年から毎年8月に放送され、今年51回目となるこの番組は、視聴者から寄せられたリクエストやエピソードを紹介しながら、昭和の名曲を中心に構成されていました。 
近年は時代の流れと視聴者の世代交代に合わせてアイドル歌謡曲やロック、平成の楽曲の割合もふえてきました。
 もともとは戦後の混乱から世界有数の経済大国になったサクセスストーリーにかき消されていく戦争の悲惨な記憶を歌謡曲にたくし、毎年8月15日近辺に放送されて来たこの番組は、「夏の紅白」と言われる以上に深い哀悼の思いを隠した大型歌謡番組です。
 わたしが忘れられないのは2015年に島津亜矢が歌った「東京だョおっ母さん」でした。船村徹作曲による戦後の埃っぽい空気とひとびとの琴線に触る切なくも悲しく懐かしいこの作品は、美空ひばりの「波止場だよお父つぁん」と双璧をなす島倉千代子の大ヒット曲でした。
わたしの子どもの頃に流行ったこの歌が、明治以後の近代の家族が破滅しニューファミリーへと衣替えする前、地面がまだアスファルトに覆われる前、戦争の傷跡がまだ数多く残り、焼けた建物と鉄条網に薄暗い煙が立ち込めていた時代に、中古ラジオのはるか遠くの荒野をわたり、しかばねを洗う荒海をわたって届けられた時代の挽歌だったことを島津亜矢に教えられました。
 時代の証言ともいえる流行歌の移り変わりを、戦後特別な意味を持ってしまった8月に墓碑銘のごとく毎年刻んできたこの番組が、くしくも天皇の世紀「令和」の風に乗じてまったくちがう時代の風景を届けることになるとは思いもしませんでした。
 番組予告で特にびっくりしたのは、島津亜矢の「I Will Always Love You」でした。およそ戦後の苦難の時にひとびとをなぐさめ励ました歌とはまったく縁のないこの歌が選ばれたのはなぜなのか、特別な違和感を感じたのは彼女のファンだけではなかったと思います。このことだけで、少なくとも今年に限ってはアジア侵略とおびただしい死、そして敗戦・戦後という昭和のくびきから生まれた「挽歌」ではなく、新しい時代への第一歩を踏み出す旅をはじめる応援歌を届けたいという、番組の意志が伝わってきました。それが果たしていい事なのかという問題はあると思うのですが、良くも悪くもそのコンセプトのもっとも尖った意志の発露をこの番組の制作チームは島津亜矢に託したのだと思います。
 そう思って今回の番組を観ていると、時間を短くした中で「もうひとつの思い出のメロディー」といってもいい、とてもよくできた番組だったと思いました。

 さて、「I Will Always Love You」ですが、おそらくこれまで聴いた中で最も感動的な歌唱だったと思いますが、それについては後で書くことにして、もっとも印象的だったのは歌い終わった後の、ほんとうに大役を果たしたようなほっとした彼女の表情でした。
 ひいき目にみればこのパフォーマンスが一番のように思いますが、実際のところは大竹しのぶの「ヨイトマケの唄」がベストだったかもしれません。大竹しのぶの凄さは役者らしく「歌手が歌い切ってしまう」暴力ではなく、聴く者のもっとも柔らかい心を背後からハグするやさしさを歌にしてしまえるところだと思います。かなり前でしたが、たしか森進一が彼女の歌を聴いて、「役者さんの歌を聴くのは歌手にとって勉強になる」というような意味の発言をしたことがあると思いますが、何年か前にNHKの「SONGS」で共演して以来、島津亜矢のたゆまぬ好奇心と探求心は大竹しのぶの歌をとても真摯に受け止め、わたしが思うにはかなりのリスぺクトを持っているはずです。
 しかしながらそれでもなお、この番組の制作チームは島津亜矢の「I Will Always Love You」にもっとも深い思い入れをもっていたことが、託された島津亜矢のその表情に現れていました。実際、画面全体の隅から隅まで、照明から音響、舞台スタッフまで、この番組の成否はこのパフォーマンスにかかっていると言わんばかりの格別の緊張感が伝わる中、島津亜矢はこの歌のベースの少し硬くてクリアな背景を描き、道ならぬ恋に別れを告げる一人の女性がそれでも「いつまでもあなたを愛し続ける」と心の中で叫ぶ、とても大きな悲しみと、とても大きな哀切を歌い残してくれたのでした。

 最近の島津亜矢のカバーソングの中で、「時代」や「帰らんちゃよか」など、島津亜矢が歌うことでもうひとつのオリジナルになり、真に歌い継ぐ歌となった歌が続出していますが、「I Will Always Love You」も加えていいと思います。
 世界的に大ヒットしたこの曲は日本のボーカリストもたくさんカバーしていて、ポップスのボーカリストが歌唱力を駆使して見事に歌い上げるのに比べて、決して演歌歌手という理由ではないのですが、なかなか抜けきれないぎこちなさもふくめて、島津亜矢のストレートな歌の中には、ひとりではもちろんのこと多くのひとびとが寄ってたかっても支えきれない、とてつもなく大きな悲しみにあふれています。それは時代そのものの悲しみといってもよく、またドリー・パートンのカントリーの楽曲をソウルバラードに曲調を変え、映画「ボディーガード」の主題歌としてよみがえらせたホイットニー・ヒューストンがその絶頂期から元夫のボビー・ブラウンとの結婚とDV、ドラッグと転がり落ちていった地獄のような日々を予言した悲しみでもあるのでしょう。
 2012年2月11日、カリフォルニア州ビバリーヒルズにあるホテルの4階客室の浴槽の中に倒れていたホイットニー・ヒューストンの48年の人生の栄光と暗闇を背負って、島津亜矢よ、あなたにこの歌を歌い継いでほしいのです。ソウルの名曲を「いかにも」と歌うあざとらしい予定調和のボーカルではなく、時を破り夢をくぐり、ひとりの黒人女性の平凡でありたいと思いながら決して平凡ではなかった波乱万丈な愛と疾走する救急車のような人生…、「いつまでも愛している」と心震わせる無垢なたましいを歌い継いでほしいと、そう思わせてくれる歌でした。
 そのことが痛いほどわかるからでしょう。この番組の制作スタッフはほんとうに島津亜矢にこの歌を歌ってほしかったんだなとあらためて思いました。

 22日には「UTAGE!」に出演する島津亜矢、いつも刺激的な音楽的冒険をさせてくれる番組のファミリーになった彼女が、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみです。「UTAGE!」はタイトル通り、昔で言えば座敷芸などのように本番のステージにたどり着くまでのメイキングが楽しいのと、未完成であってもいいからできるだけ自分の世界の限界にまで翼を広げた冒険ができること、そして異ジャンルの才能と出会えることで、特に島津亜矢の場合はたくさんの果実を獲得できるチャンスをくれる番組です。
 いまからわくわくしますが、その様子も次の機会に書こうと思っています。

島津亜矢・歌怪獣伝説「I WILL ALWAYS LOVE YOU」
島津亜矢が大きくブレイクしたきっかけとなった「金スマ」での歌唱、ずばぬけたプロデュース力を持つ中居正広が「UTAGE!」に推薦するきっかけにもなりました。

Whitney Houston - I Will Always Love You (World Music Awards 1994 HQ)
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