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2022.01.20 Thu 1798年の若きベートーヴェンと2022年の若き演奏者たち 桜の庄兵衛ギャラリーにて

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 新型コロナのオミクロン株が猛威を振るい、2022年の始まりもまたもや恐怖と不安に囲まれました。その中で、桜の庄兵衛ギャラリーの新春コンサートが16日に開催され、友人2人と参加させていただきました。
 感染対策が厳重になったものの今年最初のコンサートということで、どこか華やいだ雰囲気が漂い、開演前から主催者スタッフの方々もお客さんも心が弾んでいるように思いました。
 今回は「初春に夢の音を聴くコンサート」と題し、「佐渡裕スーパーキッズ・オーケストラ」の卒業生を中心にしたユニットの若々しい演奏を楽しむことができました。
「佐渡裕スーパーキッズ・オーケストラ」は2003年の兵庫県立芸術文化センターの開館前に佐渡裕が設立した、小学生から高校生までを集めた弦楽器によるオーケストラで、メンバーは毎年、厳しいオーディションを経て全国各地から集められます。毎年9月には兵庫県立芸術文化センター大ホールで2日間にわたる定期公演を行っている他、東日本大震災と熊本地震のそれぞれの被災地でも毎年鎮魂演奏会を開いています。
 おそらく子どもの頃から気が遠くなるような時間をひたすら楽器とともに生きてきた彼女彼らの演奏は、音楽的なテクニックもさることながら心と身体から音楽への情熱とエネルギーに満ち溢れていて、新春にふさわしい演奏会になりました。

 一部はヴァイオリンの堀江恵太さんと柳楽毬乃さん、ヴィオラの丸山緑さん、チェロの堀江牧生さんによる弦楽四重奏で、L.Vベートーヴェンの「弦楽四重奏曲第3番 ニ長調 作品18-3」、G.ロッシーニの「弦楽のためのソナタ第2番 イ長調」、同じくG.ロッシーニの「弦楽のためのソナタ第3番 ハ長調」を演奏しました。
 休憩をはさんだ第二部は、ヴィオラの丸山緑さんとコントラバスの松本友樹さんが交代し、G・オンスロウの「弦楽五重奏曲第28番 ト短調 作品72」を演奏しました。
 第1部のロッシーニの曲も第2部のオンスロウの曲も、それぞれの演奏家が奏でる音楽に重なり、もう一つの妙なる音楽が聴こえて来るようで、素晴らしい演奏でした。
 わたしはたまたまドイツで演奏活動をしているYさんが出演したのがきっかけで、桜の庄兵衛さんにたびたび来させてもらうようになりました。クラシックを聴くのも恥ずかしながらほとんどこの会場に来た時だけで、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲もこの日はじめて聴きました。ほとんど名前しか知らない作曲家の音楽をすぐそばで聴ける幸運は、それまで全く知らなかった演奏家たちとの出会いと心を動かされる演奏によってもたらされるのでした。何度かそんな稀有の体験をさせてもらっているうちに、クラシックに造詣の深い方々には失礼極まりないと思いながらも、この会場でいつも音楽を発見(?)できる感動と喜びをいつしかこのブログに書きとめるようになりました。
 今回もまた多くのことを学び、感じることができた演奏会でしたが、なによりも何気なく聴いてきた弦楽四重奏や五重奏が、例えば私には敷居の高い交響楽やオペラ、さらには一見よく似ているピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲ともちがう、独特の演奏形式であることを知りました。
 4人もしくは5人の演奏者がそれぞれの力量と表現力を発揮するのはもちろんですが、それにもましてそれぞれの演奏者が対等な関係というか、おそらくリハーサルを丹念に終えた後でも本ステージで対話し続けるといった感じで、「ああ、音楽にも民主主義があるんだ、いや音楽だからこそ自由と民主主義があるんだ」と唐突に思いました。
 「ジャズと自由は手をつないでやってくる」と言ったのはセロニアス・モンクでしたが、弦楽四重奏や五重奏はわたしにとってクラシックよりはなじみのあるジャズにとてもよく似た演奏スタイルで、実際それぞれの奏者が自分の楽器とプレイスタイルを持ちながらも音で対話し、しばしば顔を見合わせて「音楽の冒険」を楽しんでいるのでした。
 その冒険の先に何が待っているのかは、わたしにも、そしてもしかすると演者にもわかっていないのかも知れませんが、誰が主役になるわけでもなくそれぞれの楽器で交わす演奏者たちの心の会話が聞こえてくるようなのです。
 わたしは思わずある言葉を思い出しました。私の好きな詩人の言葉をもじって、以前私が口癖のように言っていたのですが…、「ひとは楽器を持つことで自由になる。楽器を持つことでなくしてしまう自由とひきかえに…」。ひとはなにかを失うことでしかなにかを得ることはできないのかもしれません。失ったものが何かはわからないにしても、彼女彼らが聴かせてくれた演奏は、もしまた同じユニットであったとしても二度とおなじものではない、一回限りの音楽なのだと思いました。
 それが際立っているのは、なんといっても彼女彼らが圧倒的に「若い」からだと思います。ベートーヴェンは1798年、28歳の時に初めての弦楽四重奏であるこの曲をつくったそうですが、今回の演奏者たちとほぼ同じ若さで、音楽をつくる喜びと野心にあふれていたことでしょう。今回の演奏では、これはクラシックを知らないわたしが感じたことなのでまったくの間違いかも知れないですが、2楽章までは若い演奏家たちの情熱がほとばしり、やや前のめりでそれぞれの演奏者の心のざわめきが聴こえてくるようでした。
 しかしながら、それこそが若きベートーヴェンが宮廷音楽から飛び出して、広く民衆に音楽を届けようと荒野を駆け抜けた風のざわめきで、一つの音楽が時も場所もちがいながら共鳴し、吹く風の行方を追いかけるようでした。
 これが音楽の奇跡なのでしょうか。人生に一度しか吹かない若い風が年老いたわたしの頬をもかすめて行きました。これから先のごく近い未来に彼女彼らが演奏家として一段と大きく羽ばたき、進化していく姿が目に浮かびました。
 そして、桜の庄兵衛ギャラリーがこれまでにどれほどの若い演奏家たちを育て、背中を押してきたのかと思うと、ほんとうにこの場所は大切な場所なのだと思います。
 観客として参加させていただくわたしもまた、彼女彼らの疾走に立ち会えた幸運に感謝します。クラシックの奥深さを感じるとともに、新春にふさわしく春の訪れを予感するコンサートでした。

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