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2020.10.25 Sun  島津亜矢の「This Is Me」は「瞼の母」で爆発させた魂の叫びが時を越え、ジャンルを超えて届けられた。

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 先日、NHK・BSプレミアムで再放送された「映画音楽は素晴らしい」で、久しぶりに島津亜矢の歌を聴きました。島津亜矢のコンサートもコロナ禍の影響で春の大阪新歌舞伎座も秋の京セラドーム公演も中止になり、わたし自身も2か月以上テレビの歌番組も見ず、この番組の本放送も見逃していました。
 久しぶりに歌番組を見ていると、コロナ禍以前にはなんとなく習慣で見ていた頃とはちがう、どこか切なく、それでいて心安らかにいられる自分をとても幸運に思います。
実際、感染症にかからないまでも体調をくずされたり仕事を追われたりと、歌どころではない切迫した毎日を送られている方もたくさんおられることでしょう。
 ひとはパンのみで生きられないといえども、歌舞音曲のたぐいは不要不急の最たるもので、今年のショービジネスの世界では過酷な選別にさらされ、数多くの才能がうずもれたまま消えてしまうかもしれません。
その中で島津亜矢もまた、彼女の最大の活動の場であるコンサートの相次ぐ中止はとても痛手で、歌を届けられないばかりではなくマネージメントも大変だと思います。

 この番組で彼女は「I Will Always Love You」と、「This Is Me」を歌いました。「I Will Always Love You」は、島津亜矢の洋楽歌唱がはじめて注目された曲です。この曲はバラードの名曲として数々のボーカリストが競って歌っていますが、わたしは島津亜矢がホイットニー・ヒューストンの悲劇的な最後に想いを寄せ、ホイットニーへの追悼歌として歌い続けてくれることを望みます。久しぶりの歌唱はより豊かなものになっていて、島津亜矢のとどまらない努力を感じました。
 驚いたのは「This Is Me」でした。この楽曲は2017年アメリカ映画「グレイテスト・ショーマン」の主題歌で、ゴールデングローブ賞を受賞しました。
 わたしは大阪の北端・能勢町に引っ越してから、緑地公園駅近くに住んでいた頃は頻繁に見ていた映画をほとんど見なくなってしまいました。鉄道が通っていない能勢では一時間に一本あるかないかのバスで最寄りの駅に出なければならず、車を運転できないわたしには大阪に出ていくことは以前ほど簡単ではなく、ついつい見たいと思う映画も見逃してしまうのです。
 まして、わたしはハリウッド映画のようなメジャーな映画は好みではなく、いわゆる単館ロードショーにかかる映画ばかりを見てきましたので、この映画もわたしのアンテナには引っかからずで、この映画の主題歌「This Is Me」も一度も聴いたことがありませんでした。
 ヒュー・ジャックマンの主演最新作「グレイテスト・ショーマン」は、ショービジネスの原点を築いた伝説の興行師、P.T.バーナムをモデルにしたミュージカル映画です。
 この映画では小人、巨人、髭の生えた女性、毛むくじゃらの少年、黒人などこれまで蔑みの目を向けられていた個性の強いメンバーによるサーカスショーが繰り広げられます。
 当時も、そして今でも、人前に出るだけで差別を受け、迫害される彼女彼らのコンプレックスを魅力へと昇華させたバーナムのショーは人気を博します。バーナムは彼らを「みんなと違うから面白い」と、いわゆるオンリー・ワンの個性を持つ人々として讃えていきます。一方で、それを不快な見世物として上から目線で批判するマスコミや、さらには彼らを激しくののしり迫害するひとたちも登場します。障害者を見世物にする興行はかつて日本でも盛んにおこなわれていましたが、まさしく障害者差別以外の何物でもなく、今はなくなりました。
 障害者のサーカスショーの映画と言えば、1932年の問題作「フリークス」を思い出します。この映画では実際の障害者自身が登場し、直視できない観客が次々と席をたったと言われています。 
 わたしは「フリークス」を国際障害者年の一年前だったか、当時の京大西部講堂で障害者運動が主催した「国際障害者年をぶっつぶせ」という企画で、原一男監督作品「さよならCP」との二本立てで視覚障害者の女性と観に行きました。
 彼女彼らの主張は「障害者に対する差別は健全者社会に深く刷り込まれていて、その元凶といえる国や行政主導の『道徳』ではなくなるどころかより陰湿化する」、というようなものでした。このすばらしい企画による映画会は、わたしの人生を変えた大きな事件でした。また、「見られる」障害者差別から「見せる」という反時代的な舞台表現で国家や社会への反逆を試みた寺山修司率いる劇団天井桟敷の初期作品「青森県のせむし男」や「大山デブコの犯罪」を思い出します。
 ハリウッド映画のすごいところは、このようなマイノリティといわれる人々の問題を圧倒的な説得力でエンターティンメント化できるところにあるのでしょう。
 島津亜矢が歌う「This Is Me」を聴いていて、心が震えました。その震えは彼女がいわゆる名曲とされる歌を見事な歌唱力で歌い上げることにあるのではなく、彼女の歌唱ではじめて聴くこの歌にぎっしりつまっている何かが、わたしの心を動かしたのでした。
以前、島津亜矢が座長公演をしていた時の演出家・六車俊治が、「島津さんの歌声に感じる悲しさ、しかし、明るい力強さ、そして、そのまっすぐな心」と、島津亜矢を絶賛した言葉を思い出しました。
 歌怪獣と呼ばれるほどの歌唱力が広く認められるようになった今でも、彼女が歌うポップスも洋楽もややもするとどんな歌でも歌いこなすことにのみに関心が向けられる傾向があります。
 しかしながらわたしは唐十郎がきっかけで演劇の世界に入ったという六車俊治がいみじくも言った「悲しさ」、たったひとりの人間の悲しさを時代の悲しさへと普遍化し表現できる才能こそが、オールラウンドなボーカリストへと進化しつづける島津亜矢の真骨頂だと思います。
 「This Is Me」はまさしく、かつての「瞼の母」で爆発させた魂の叫びが時を越え、ジャンルを超えて届けられた島津亜矢の珠玉の一曲でした。
 映画「グレイテスト・ショーマン」がどんな映画なのか、また「This Is Me」がどんなシチュエーションで歌われたのか、おくればせながらこの映画を見たいと思います。

島津亜矢「This is me」

The Greatest Showman Cast - This Is Me (Official Lyric Video)

ヒュー・ジャックマンも感涙!映画『グレイテスト・ショーマン』「This Is Me」ワークショップセッションの様子
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