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2011.07.06 Wed ゆめ風基金応援歌「風と夢」、「伝えてください」 小室等3

小室等さんと酒を飲み交わしながら話をする機会があるとは、思ってもみませんでした。
 2002年6月、ぼくは香川の友人グループの「コスモスの家」と被災障害者支援「ゆめ風基金」が主催した小室等コンサートの手伝いに行きました。
 その打ち上げの席のことでした。それまでぼくは何回もコンサートやトークイベントにかかわってきましたが、出演者と話をする機会を持ちませんでした。
 この時もぼくはいつもの習慣どおり出演者とは離れた席に坐っていたのですが、スタッフをねぎらうために小室さんが席を移動してきたのでした。

 小室さんの4才下で1947年生まれのぼくの世代はビートルズ世代であるとともにフォークソング世代でもあります。けれどもぼくがほんとうに小室等さんの音楽と出会ったのはずっとおそく、1976年に放送された山田太一のドラマ「高原へいらっしゃい」の時でした。
 このドラマの中で「お早ようの朝」と「高原」が流れたのですが、どちらも谷川俊太郎作詞のアルバム3部作のひとつである「いま生きているということ」に収められています。
 「男たちの旅路」、「岸辺のアルバム」をはじめ、1970年代に放送された山田太一のドラマは多くの山田太一ファンをつくりましたが、「高原へいらっしゃい」もそのひとつでした。田宮二郎、益田喜頓、北林谷栄、池波志乃、三田佳子、尾藤イサオ、岡田英次など、出演者も多彩な顔ぶれでした。

野苺の花の上の露のひとしずく
まん中に草の生えてる道は
霧の中へ消えてゆく (「高原」)

 尾藤イサオが運転するジープがゆっくりと高原の道を走るシーンでかかったこの歌を聴いて、ぼくはすぐにレコード屋に行ってLP「いま生きているということ」を買いました。
 歌はほんとうにふしぎなもので、歌の作り手からはなれ、巷に流れたとたん、いまその歌を必要とする心に届く瞬間があります。
 きっと歌はひとが言葉や道具や歴史を生み出すずっと前からあり、大地の中にしみこんでいたり水の中をもぐっていたり風の中にかくれていたりしていて、ある朝いつものように水道の蛇口をひねるだけで心を満たし、生きる勇気を運んでくるのでしょう。ぼくにとって「お早うの朝」や「高原」はそういう歌でした。

 小室さんの歌との出会いから11年後の1987年12月、ぼくは豊能障害者労働センターのスタッフとして、小室等さんのコンサートスタッフの一員になっていました。
 いつも心の中にいたひとが突然ぼくのすぐ前に現れました。しかもステージの上に立つそのひとはとても近くにいるのに、心の中にいる彼よりも近寄りがたく遠い存在で、キラキラかがやいているのでした。

 それからぼくは何度か小室さんのコンサートを主催したり、応援スタッフとして参加することになりましたが、話をする機会はありませんでした。
 「どうしよう、小室さんがやってくる」と、内心どきどきの僕の前に小室さんがすわったとたん、ぼくをつつむ空気があたたかくなりました。どこかなつかしいこの暖かさは何だ?と思っている間に、彼はまるで何年ぶりかに会った古い親友のように話をしてくれたでした。
 とくに武満徹の話になると止まらなくなり、ぼくの知らない武満徹のエピソードをたくさん聞かせてもらいました。1976年からぼくの心の中にいた小室さんと現実の小室さんがひとつになった出来事でした。
 その日はスタッフとしての役目を終え、主催者の許しを得て途中から会場の端で小室さんの歌を聴くことができました。
 実はそれまでの数年聴くチャンスがなく、久しぶりに小室さんの生の声を聴いたのですが、正直おどろきと感動で涙が止まりませんでした。
 失礼かも知れないが年のとり方が実にステキなのです。髪の毛は真っ白だし、体は折れそうに細く声も枯れそうなのだが、数年見なかっただけでこんなにキュートに、ピュアになっている。若返るのではなく、年を重ねるたびにセクシーになっていく。やっぱり小室さんはただ者ではないと思いました。
 小室さんの歌には、人間の笑いや怒りや涙や、さりげないやさしさやせつない希望がかくれんぼしていて、ぼくたちはたとえば夕暮れ、野に咲く花にふと立ち止まるようないとおしくもなつかしい何かに心を打たれるのです。そしてこの世にはスターダストのように何百億もの歌があり、ぼくたちは実は空気といっしょに無数の歌を呼吸しているのだと感じます。小室さんはその土地その土地の空気をからだと心いっぱいに吸い込み、それをゆっくり吐き出すように歌うのでした。
 もちろんその中には土のにおいや川の流れ、木々のおしゃべりなど、その土地の自然が語りかける歌もあれば、その土地に暮らすひとびとの日常や今を生きるぼくたちの時代そのものの歌もあるでしょう。
 だから小室さんの歌を聴きながら、おそらく小室さん自身が言う「音楽が立ち上がる場」、無数の「歌屑」から新しい歌が生まれる瞬間にぼくたちは立ち会っているのだと思います。歌っている小室さんがセクシーである秘密はそこにあるのだと思うのです。

 2005年、小室さんが「ゆめ風基金」の呼びかけ人代表を永六輔さんから引き継ぎ、「ゆめ風基金応援歌」を作曲しました。作詞は永六輔さんと谷川俊太郎さん。
 「ゆめ風基金」のぜいたくで無茶な呼びかけが実現してしまったのでした。
 小室さんは昔フォークソング絶頂期に、ひとつだけのメッセージを伝えるためだけに音楽があるなら、音楽自体はメッセージを持たないのかと苦悩されていたと聞きます。ゆめ風基金のCD制作の話が出たときも、あの「ウィ・アー・ザ・ワールド」に疑問を感じるところもあると言われたのは、そのことと関係があるように思います。
 政治的だろうと文化的だろうと、歌は時々何かの力に利用されてきた歴史があります。そのことに無頓着に、あるいは確信的に迎合してしまう危険を小室さんは若いときから感じていたのだと思います。
 けれどもまた、歌は危険と隣り合わせにいながら、愛を必要とする心に、切ない夢をかくす心に、生きる勇気を育てる心に届く力を持っていることもまた確かなことなのです。
 そのことを痛いほど経験してきた小室さんだからこそ、「ゆめ風基金応援歌」は単に基金運動に奉仕する道具になってしまう危険から解放されたすばらしい歌になったのでした。
「ゆめ風基金」を支えてきた関西のミュージシャンと、小室さんが信頼する友人のミュージシャンが録音に参加し、「風と夢」、「伝えてください」の2曲がCDに収められました。
心に深く、大地に広く……。ぼくたちはまた、「音楽が立ち上がる場」、新しい歌の誕生に立ち会うことができたのでした。
 2つの歌は16年前の阪神淡路大震災を歌ったものであるはずでした。まさか今回の大震災でこの歌をもう一度涙とともに聴くことがあるとは思いもしませんでした。
 しかしながら、神戸から東北へと時空をこえてつながってしまった大きな悲しみをやがて希望に変えるために、わたしたちはこの2つの歌を歌い継ごうと思いました。
「人生を積極的に肯定する情熱がない限り、歌は生まれないだろうと思う」                                         武満徹
                (小室等著「人生を肯定するもの、それが音楽」より)
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