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2017.11.25 Sat 「ジャズと青春は手をつなぐ」 大塚善章ジャズライブ・桜の庄兵衛にて

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 11月19日は大阪府豊中市・岡町駅から商店街を通り抜けてすぐの「桜の庄兵衛ギャラリー」のライブに行きました。
 「桜の庄兵衛ギャラリー」は江戸時代に庄屋さんだった旧家で、阪神淡路大震災で壊れてしまった屋敷の一部を修復再生するにあたり、本来客間だったところを地域に開放されたギャラリーにされました。ここで年に何回か催されるライブは落語からクラシック、ジャズなどジャンルにかかわらず、和室の大広間の梁や柱と白壁にはさまざまな音楽がしみこみ、いつも演奏者とお客さんを静かに待ってくれているようです。
 間近で演奏される和の空間は大きなコンサート会場では味わえない手触り感と珠玉の時間を用意し、演奏するプレイヤーにとってもお客さんにとっても毎回心に残るライブとなっています。
 92回を迎える今回は、日本のジャズの草分け的なピアニストで83歳になられる大塚善章さんを迎え、第一部では1991年にご本人が作曲された組曲「面(OMOTE)」の演奏を、第二部ではウェストサイドストリーから3曲、ビートルズナンバーから4曲を演奏されました。
 また、第一部では特別ゲストとして能面打の増田豊春さんが演奏に合わせて能面の展示をされたり、休憩時間や終演後に能面の解説をしてくださいました。増田さんは古楽器バード・フラジオレット(笛の一種)の製作もされていて、第2部では製作されたフラジオレットの紹介もしてくださいました。

 第一部の開演時間となり、大塚善章さんは柔らかな物腰で登場し、ピアノの前に座りました。1950年代から活躍されている大塚善章さんの演奏を、実は私は一度も聴いたことがありませんでした。ただ、プロフィールを見て、古谷充と「The Freshmen」を結成したメンバーの一人と知り、古谷充のサックスは何度かテレビで聴いていたので、大塚さんのピアノも聴いていたのかもしれません。
 83歳という年齢と活動歴62年ということで、やわらかなタッチの老練なプレイヤーと勝手に想像していたのですが、ひとたび鍵盤をたたくととんでもない、とても若々しくどちらかといえばハードというか厳しいというか、硬質で宝石のようなきらきらしたピアノで、あっという間に大塚さんの世界に入りこんでしまいました。
 組曲「面(OMOTE)」はかねてより能楽を通じて増田豊春氏の能面に魅せられた大塚さんが作曲を思い立ち、獅子口(ししぐち)、小面(こおもて)、邯鄲男(かんたんおとこ)、三光尉(さんこうじょう)、癋見悪尉(べしみあくじょう)の5つの能面を選び、それぞれのイメージを音楽で表現し、組曲にしたものです。
 プロローグは荘厳で、能の世界へいざなう幽玄な結界からすぐに一曲目の獅子口へとつながっていきました。わたしは能の世界は全くわからないのですが、ややもすると和の世界をモチーフにした異ジャンルの音楽はそのモチーフに引っ張られることが多いと感じるのですが、大塚さんのジャズはそこがちがいました。彼は自分の信ずるジャズのありようがあるみたいで、妥協のないジャズの曲として作曲し、演奏されていました。
 それはおそらく、彼が能の舞台に惹かれてこの組曲を作っただけではなく、能面の裏側には面(おもて)だけを見せる光の塊のような能舞台をそっくり裏替えしたネガの世界があり、ハレの舞台を覗きながら演ずる役者の息遣いを想像して能面師が面を打つ(彫る)作業そのものにジャズを感じたからではないかと、勝手に思いました。
 ともあれ、まるで現代音楽のような張り詰めたピアノが空間を引き裂き、その裂け目からまぶしく透明な光がわたしたちを包むような、素晴らしい音楽でした。

 休憩をはさんで第二部はとってかわったようにリラックスしたピアノで、第一部の緊張感がうそのようでした。大塚さんのピアノは、わたしがよく聴いているフリージャズのような激しさではなく、誰もがよく知っているスタンダードな名曲をジャズにアレンジされた演奏で、軽やかで優しいメロディーとリズムに心が弾みました。
 ポップスやシャンソンや映画音楽がジャズになっているのはたくさんあり、ジョン・コルトレーンの「マイ・フェイヴァリット・シングス」などが有名ですが、大塚さんもさまざまな映画音楽やスタンダードをジャズにアレンジされていて、演奏や作曲の才能だけでなく、独自のアレンジとアドリブに特別の才能を感じました。
 今回のようにそれぞれの曲の演奏時間を短くしなければならないミニコンサートでは、特にアレンジの力が必要で、全体をメロディー化し、曲と曲との間をアドリブかどうかわからないのですが短くつなぎ、ジャズのだいご味を感じました。
 わたしはリアルなビートルズファンでしたから、「ノルウェイの森」、「ミシェル」、「サムシング」、「イエスタデイ」はとてもうれしく聴きました。
 とくに素晴らしく感じたのは「サムシング」です。この曲は1969年、ビートルズの実質のラストアルバムとなった「アビー・ロード」に収められた、ジョージ・ハリスンの最高傑作と言ってもいい楽曲です。ビートルズ時代、彼の楽曲はそんなに多くはないのですが、このアルバムを聴いた時、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの良くも悪くも煮詰まった楽曲の間にあって、さわやかでナイーブなこの曲に救われた感じがしました。
 ジョン・レノンはこの曲を「アビイ・ロード」で一番の曲とコメントし、フランク・シナトラはこの曲を「20世紀最高のラヴ・ソングだ。」と絶賛したそうです。
 大塚さんのアレンジは川の流れのようで、アンコールで弾かれた「慕情」とともに素晴らしい演奏でした。 
 「落ち葉踏む小春日和の大塚善章ジャズライブ」、夕方の4時半から始まったライブでしたが、終演の時には外は日が沈み、暗くなっていました。第一部と第二部、それぞれ違った風景を見せてくれたジャズライブでした。
 昔、セロニアス・モンクが「ジャズと自由は手をつなぐ」といったそうですが、大塚善章さんのピアノを聴いていると、「ジャズと青春は手をつなぐ」という言葉が浮かびました。ジャズはいつまでも若く、年を取らないのだとつくづく感じた一夜でした。

Tonight 大塚善章グループ
2013年9月13日 大塚善章(Pf)、中山良一(Bs)、御薬袋一男(Ds)
この日に演奏された「Tonight」の別会場での音源です。 
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