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2017.09.11 Mon 映画「機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突ルウム会戦』の主題歌は、島津亜矢の今年の代表曲

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 島津亜矢の「異業種格闘技」(?)のブレイクは続き、今度はアニメソングを歌うことになりました。それも映画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突ルウム会戦』の主題歌「I CAN'T DO ANYTHING -宇宙よ-」を歌唱します。
 1979年以来、ロボットアニメの先駆者としてアニメファンを魅了してきた「機動戦士ガンダム」の初期作品の作画監督で、今回のシリーズの原作者でもあり、映画の総監督でもある安彦良和氏が数年前に聴いた島津亜矢の「I Will Always Love You」に衝撃を受け、異例の抜擢となりました。
 島津亜矢の歌声が心に残っていた安彦氏は、シリーズを手がけるに当たり起用を決意し、しぶるスタッフも説き伏せ「ここまでゴリ押ししたのは初めて」という強引さで話を決めたそうです。
 今春に行われたレコーディングには安彦氏も同席し、島津亜矢に「ガンダム」への思いを説くなど“機動戦士スピリット”を伝授し、演歌歌手という先入観をさけるため、「AYA」という名前で歌いあげました。
 アニメソングは国内にとどまらず最近の音楽シーンに欠かせないもので、アニメ映画の声優が歌も歌い、武道館やドームを満席にできるほど大きな市場になっています。
 わたしはアニメソングには疎く、好きな歌手は水樹奈々ぐらいでなんともいえないのですが、最近のアニメソングはアニメ映画の大ブームと呼応するようにエンターテインメント性が高く、大時代的で壮大なロマンを歌い上げるものが多いようです。
 わたしはその意味で、島津亜矢はアニメソングに向いていると思っていました。安彦監督が島津亜矢を抜擢したのはポップスにおける稀有な歌唱力によるものとは思いますが、それだけでなく、彼女の歌に大きな世界観を感じたのだと思います。
 事実、「山河」や「熱き心に」、「北の蛍」や「函館山から」など、彼女のようにこれらの歌に隠れている時代の風景をよみがえらせ、時代まるごと血肉で一枚のタブロー画を描いてしまえる歌い手さんは数少ないと思うのです。
 その意味ではカバー曲の場合はすでに一定の評価がある楽曲ですし、オリジナル曲の場合はあくまでも島津亜矢のためだけにつくられる楽曲ですが、今回の彼女の冒険は壮大な疑似世界観のもとでつくられたアニメを基盤にして、音楽的にも興行的にもしっかりしたコンセプトでつくられる音楽に、彼女がどうこたえるかということでした。
 映画が上映されている新宿ピカデリーの舞台挨拶での歌唱をユーチューブで聴きましたが、想像した通りの壮大な曲でした。
 実際のところ、わたしはアニメ映画にかかわらず戦争ものが苦手です。その理由は世界中でただひとつ、法律の下で合法的に人を殺すことのできる「国家」という存在が掲げる「正義」と「もうひとつの正義」が利権をうばいあい、時の権力者が陣地とりゲームのように兵士たちを動かし、殺し合いによっておびただしい血が流れ、果てしなく死体が積み上げる「戦争」が怖いのです。
 世界や地球を守るための正義の戦士たちの活躍は、物語が終わればその空想も終わるはずなのに、空想に入りこんだまま出て来られない人々が現実の中で戦争ゲームを繰り返す恐怖がわたしたちの社会を覆いつくしています。
 そのことを痛いほど知っているからこそ、戦記アニメではしばしば「戦争」の愚かさと失われたいのちへの哀悼と共に、ひととひとが愛し合い、助け合える平和な世界を願う祈りの歌が流れます。
 映画を見終えた人々がそれまでの荒ぶれる心をいやし、明日への希望を抱いて映画館の外の日常に戻っていくためのラストソングは、この一作では終わらない「ガンダム オリジン」シリーズの次作を熱望させるための仕掛けの曲でもあります。
 安彦監督は服部隆之氏に、「ホイットニー・ヒューストンに書くつもりで曲を書いて下さい。ホイットニーが歌える曲なら、島津さんは歌えます」と依頼したということでした。
 レコーディングの時、服部隆之氏は「いきなりメジャー級のパワーでやられちゃったね」と言ったそうです。
 実際、わたしははじめて島津亜矢にふさわしいオリジナル楽曲が誕生したと思いました。
 演歌・歌謡曲であろうとポップスであろうとジャンルにかかわらず、稀有の才能がようやく広く認知されるようになった島津亜矢の課題の一つは、オリジナル曲の貧困さがあるとわたしは思っています。
 1960年代までなら歌謡曲全般がジャズから民謡、ポップスから浪花節まで、大衆音楽すべてを網羅した大きなジャンルでした。あの時代なら島津亜矢に楽曲を提供する作家諸氏も今のようなせせこましい観念にとらわれることなく、島津亜矢の才能に刺激されてさまざまな冒険と実験をしたと思います。
 多くの人々が「日本人の心の歌」と信じている「演歌」というジャンルは、実はせいぜい60年代後半から70年代にかけて歌謡曲から派生した比較的新しいジャンルです。
 島津亜矢が歌手として出発した80年代には70年代をピークに演歌は日本の大衆音楽の中のごく小さなジャンルになっていました。そこに世代論も交錯し、90年代から歌謡曲のほとんどがJポップに移行する中で演歌はますます偏狭な自己撞着におちいり、 音楽的な冒険のないまま独りよがりの日本人像に縛られてきたのではないでしょうか。
 音楽の作り手も歌い手も聴き手も冒険を望まず、次の歌詞も曲の一節もわかってしまうような音楽を漫然と作り続けている間に、「日本の音楽じゃない」とうそぶいていたポップスのジャンルでは若い人たちをターゲットにいつも新鮮で刺激的な楽曲をつくるソングライターが続々と出現しました。
 永六輔が作詞をやめた理由のひとつに、自分が聴きたい歌を歌い、自分が歌いたい歌を作る小室等や井上陽水の歌を聴き、これからはシンガー・ソングライターの時代だと思ったと証言しています。実際、80年代以降、時代を語る音楽のほとんどはポップスのジャンルから生まれているとわたしは思います。
 島津亜矢の受難はそんな時代に演歌歌手になり、その出自を生真面目に守りながら彼女自身も持てあます無尽蔵の才能が「歌とは何か」と彼女を追い詰め、歌の誕生の地へと導かれる宿命を背負ったことだとわたしは思います。
 彼女の歌手としての「大器」と、彼女に提供される楽曲の偏狭な世界との間で悶々とした長い年月は、恩師・星野哲郎を以てしても致し方なかったと思われます。それでも、稀代の詩人であった彼は、彼なりの演歌として「大器晩成」や「海鳴りの詩」などの作詞を通じて島津亜矢の未来を夢見てきたのだと思います。
 島津亜矢のファンの方々のバッシングを承知で言えば、わたしはいま彼女が歌っている「演歌」には、星野哲郎の詩に隠された思想や情熱が感じられません。たとえば星野哲郎の傑作「出世街道」では高度経済成長から突き飛ばされた若者が、滅びゆく美学を胸にドロップアウトする根拠のない覚悟が歌われています。
 最近はあいも変わらずの男女の結ばれぬ愛や、上から目線で道徳観を披瀝し、結局は今の社会を後追い的に肯定するだけの歌が目立ちます。星野哲郎の「兄弟仁義」、「風雪ながれ旅」や、「瞼の母」、「大利根無情」など、時代のアウトローでしかなかった人々の言葉にならない心情を、かつての演歌は代弁してくれていたはずです。
 そんな絶望的と言える島津亜矢の周辺が一変したのが今年でした。それはちょうど長い年月を地下活動で鍛えた歌姫が地上に現れたようなのです。松尾潔、松山千春、マキタスポーツ、そして多分中居正広、安彦良和と、島津亜矢を発見した各界のプロ中のプロが彼女の才能を広げたい、彼女の才能の行く末を見てみたいと彼女を応援し、プロデュースしたいと思う人々が現れたのです。
 ジャンルを超えて、これこそが星野哲郎が夢見てきたことなのだとわたしは思います。
 もちろん島津亜矢自身も長年のファンの方々も、これまで律義に守ってきた「演歌」を捨てることなどできないでしょう。「演歌」もまた、ようやく激動する時代を変え、丘みどりなど島津亜矢に次ぐ大器が育ちつつあります。
 わたしは、島津亜矢が演歌であろうとポップスであろうと、先に書いたアウトローの心情やかなわぬ夢を歌う、時代の歌姫になってほしいと願っています。
 そんな時に訪れた大きなチャンスが、ガンダムのアニメソングだと思います。安彦監督が映画のラストソングにふさわしい歌手として島津亜矢を抜擢したことは、偶然の出会いもさることながら、その深い洞察力に拍手を送りたいと思います。そうなんですよ、  島津亜矢はいま時代を歌い、時代を変えるほんとうに数少ない歌手なんです。
 それが証拠に、この難しい曲を難なく歌い、作・編曲の服部隆之などこれまでの楽曲提供とはちがう新鮮な曲想で綴る「ガンダム」の世界の奥深くに届く歌唱になっていると思います。
 これもまた、長年の島津亜矢ファンにバッシングされるでしょうが、わたしがもし紅白歌合戦のプロデューサーなら、迷うことなくこの歌を島津亜矢に歌ってもらうでしょう。
 それはこの歌が、島津亜矢にしか歌えないという切実な思いでプロデュースされた楽曲で、彼女が出会った数少ないほんとうのオリジナル曲だからです。
 最近のNHKの音楽番組のコンセプトにもっともぴったりしたもので、話題性、音楽的冒険、音楽の質、ともに今年の島津亜矢を象徴する楽曲だとわたしは信じます。

映画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突ルウム会戦』の主題歌「I CAN'T DO ANYTHING -宇宙よ-」
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