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2017.07.17 Mon 「また見つかった、 何が、永遠が、 海と溶け合う太陽が」 あそびりクラブチャリティーコンサート

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 7月13日、箕面文化交流センターで開かれた「あそびりクラブ チャリティーコンサート」に行きました。
 「あそびりクラブ」は1992年に設立された高齢者サービス事業所で、デイサービスから始まり、現在は居宅介護支援事業、グループホーム、訪問介護ステーションの他、介護予防教室も運営されています。
 介護保険制度が始まるずっと前に、ホームヘルパーをしていた幾人かの人たちが、家族に頼らざるを得ない高齢者の社会的介護の充実をめざし、公的助成も乏しい中で市民によるデイサービス事業を始めたのでした。
 わたしは当時、豊能障害者労働センターに在職し、障害者の働く場や、障害者が市民として生活するために必要な介護サービスの充実をすすめる運動に参加していましたので、高齢者問題を市民の問題としてとらえ、実行しながら行政施策の充実を求める「あそびりクラブ」のひとたちにシンパシーを持っていました。
 設立後、さまざまな困難を乗り越え、国や箕面市行政とも連携しながらNPO法人になるなど少しずつ活動を広げてきた「あそびりクラブ」は、たくさんの高齢者の生き生きとした活動の場として箕面市民に愛されてきました。
 今年11回目となるこのコンサートは、「あそびりクラブ」のサービスを利用していた高齢者の娘さんがドイツで活躍するヴィオラ奏者であったことから、高齢当事者の尊厳を大切にする福祉サービスを実行する「あそびりクラブ」に共感し、利用者とその家族、スタッフや関係者に夏の夜の一夜、音楽に親しんでもらおうと提案されたことがきっかけで始まったと聞きます。
さらにこのコンサートの素晴らしさは、高齢者施設の中での催しではなく、広く市民に開放し、世界の音楽シーンで活躍する演奏者によるピアノ弦楽五重奏を楽しむ機会を提供してきたことにあります。
それは高齢者の問題が福祉という密室で語られるのではなく、社会の未来に届けられるかけがえのない宝物として市民社会の真っただ中で語り合いたいという切実な願いと、いつの時代にも時代の鏡でありながら、それぞれの時代の異形を映し出すことで時代を変えてきた人類の宝物である芸術表現との奇跡的な出会いでもありました。

 第一部はヴァイオリン・木村直子さん、チェロ・木村正雄さん、ピアノ・都田悦子さんによるベートーベンのピアノ三重奏で始まりました。
交響楽のイメージが強いベートーベンですが、今回演奏されたピアノ三重奏曲「大公」では優雅で気品のある楽曲をとても親しみやすく演奏されていて、心が軽くなるようでした。そのあとタンゴを演奏されると、客席の空気が一気にリラックスし、なごやかな雰囲気になりました。
第一部の後半は、音楽療法士で21年前から「あそびりクラブ」のボランティア活動をされている山田富美子さんによる、リハビリテーションを生かした観客参加型のワークショップで、みんなで歌を歌い、体を動かしました。

休憩をはさんで第2部は、ヴァイオリン・田島綾乃さん、ヴィオラ・吉田馨さん、チェロ・坪井大典さん、コントラバス・飛田勇治さん、ピアノ・中井由貴子さんによるピアノ五重奏でした。楽曲は「ヘルマン・ゲッツ ピアノ五重奏曲 ハ短調 作品16」でした。
 たびたび書いていますように、とりわけクラシック音楽をまったく知らないわたしが感想を書くなどおこがましいのですが、演奏が始まったとたん、5人の演奏者たちが奏でる音楽に一気に呑み込まれました。
 わたしの偏見で、クラシックはもっと静的な音楽と勝手に思っていたのですが、舞台の狭さがそう感じさせたのかもしれませんが、5人の奏者がお互いの演奏にまぎれこんだり、反対に自分の演奏に受け入れたりしながら、大きな物語(わたしはその物語はとても悲劇的に聞こえました)を共に語り、ともにつくりあげる、そんな臨場感に圧倒されたのでした。その時、わたしは若い時に心ときめかせてみた映画を思い出していました。
その映画はジャン・ルック・ゴダールの「気狂いピエロ」(差別語はご容赦ください)です。
 退屈な生活から逃げ出したい衝動から主人公の男は、ふと出会った昔愛人だった女と一夜を過ごすのですが、翌朝見知らぬ男の死体を見つけ、彼女と共に逃避行を始めます。そのうちにギャングに追われるのに嫌気がさした女は、ギャングと通じて男を裏切ります。女を銃殺した男は顔にペンキを塗り、さらにはダイナマイトまで顔に巻きつけ、火を点ける。我に返った男は火を消そうとしますが間に合わずに爆死。カメラは地中海を映し、アルチュール・ランボーの詩「永遠」が朗読されます。
「また見つかった、 何が、永遠が、 海と溶け合う太陽が」
 人生に一度限りの青春はいつも非日常と暴力性と理不尽さで彩られますが、大人になることは青春の危険な誘惑から逃れ、退屈な日常を受け入れることでもあります。支離滅裂でわけのわからないこの映画は、社会と順応することを拒むこどもたちの危いおとぎ話ですが、それがゆえに大人になることで捨ててしまう少年少女の無垢な心がかくされています。
 早逝の音楽家・ヘルマン・ゲッツがこの楽曲を作ったのは亡くなる2年前の1874年で、映画「気狂いピエロ」ほどではないと思いますが、長年患っていた結核に悩まされ、死を目前にした天才作曲家の果たせなかった青春の夢もまた後世の幾多の才能によって引き継がれ、演奏され、いくつもの時代の無数のひとびとに届けられてきたことでしょう。
 今日、箕面文化交流センターで200人の人々とともに、わたしの心に届けられたように。
 毎年、多忙な演奏活動の合間を縫うように日程をつくり、この時期に箕面と石巻で演奏するこのユニットの演奏家の深い思いと心意気で奇跡的に実現していて、わたしたちに音楽を届けてくれるまでにたくさんの問題を解決してきたことでしょう。
 その奇跡を実現しているのは、すべての音楽がいつの時代も自然災害や戦火やテロによって失われてきた無数のたましいが漂う大地や森や海や空と、愛を必要とする心から生まれ、愛を必要とする心に届けられることを信じる演奏家たちの過激なやさしさと、芸術家としての情熱であることに感謝したいと思います。
 そして、クラシックの長い歴史を育て、培ってきた数えきれない作曲家や演奏家の才能と努力によって大切に保存され、残された楽譜たちもまた遠くて深い記憶を持っていることにも…。

ヘルマン・ゲッツ ピアノ五重奏曲 ハ短調 作品16 第一楽章
この演奏はこのユニットの演奏ではありません。ホールの違いで反響の違いもありますが、このユニットの演奏はもっとセンシティブで、それでいて激情も感じられ、ドラマチックでした。
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