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2017.06.08 Thu 流行り歌より聴きたい歌 新歌舞伎座・島津亜矢コンサート2017

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 6月6日、「島津亜矢コンサート2017」を観に、大阪新歌舞伎座に行きました。
 昨年秋のフェスティバルホール以来のライブで、なぜかとても懐かしく感じました。今までも年に2回程度しか行ってなかったので、懐かしく感じたのは月日のせいではなく、この半年余りの間地域のイベントと友部正人コンサートの準備で音楽番組も見逃してしまうほど、島津亜矢に限らず友部正人以外の音楽から少し離れていたことを告白しなければなりません。
 実際のところ、演歌(今の演歌)があまり好きではないわたしが島津亜矢のファンになったのは、2009年、仕事の関係でベトナムでの暮らしが長かったわたしの親友・Kさんが肺がんとわかり、治療に専念するために大阪の病院に入院したのがきっかけでした。
 病室で聴くCDを届けようと、Jポップか若い頃に熱中したビートルズかクイーンにしようかと本人にたずねると、「島津亜矢」を持ってきてくれと言いました。
 妻の母親と同居するようになって、今までミュージックステーションしか観なかった私は演歌・歌謡曲番組の「歌謡コンサート」や「BS日本のうた」を観るようになり、島津亜矢もこれらの番組で知りました。当初は声量があり元気のいい歌手というイメージだけで、ほとんど彼女の歌が心に届くことはありませんでした。
 Kさんに「島津亜矢」と言われた時、病に侵され病室で死への恐怖に耐えながらベッドに横たわる彼の姿と、遠く離れたベトナムに届くNHKの衛星放送で島津亜矢を聴く彼の姿が重なり、わたしは涙を隠しました。
 「死ぬのが悲しいのは、自分の愛する家族や友人と別れなければならないからや」と、専門病棟の談話室でぽつりと言った彼の言葉が、わたしとの最後の言葉でした。

 彼の病室に届ける島津亜矢の何枚かのベストアルバムを聴いているうちに、彼がなぜ島津亜矢を好きになったのか、わかったような気がしました。
わたしは歌には「聞こえてくる歌」と「聴きたい歌」のふたつの種類があると思います。
 海外勤務で、またそんなにネットにくわしくはない彼にとって、「歌謡コンサート」は日本の流行歌の数少ない情報源だったのでしょう。日本国内では流行り歌を紹介したり人気歌手が出演する代表的な番組とは言い難く、どちらかと言えば時代錯誤ともいえるこの番組をささやかな楽しみにしているひとは、彼のみならず海外で暮らす日本人の中に少なからずいるのでしょう。
 日本の歌謡曲番組を通して、懐かしい故郷の風景や日本の四季や日本に住む人々とつながろうとする気持ちは、阿久悠の歌にあるように「流行り歌などなくていい」のです。
 海を隔てた彼の遠い心にまで届く歌は、かつての日本の路地裏に流れる流行り歌のような「聞こえる歌」ではなく、その歌の心とつながり、歌を必要とする心に届く「聴きたい歌」だったのではないでしょうか。そして、島津亜矢の歌はそんな彼の心の辺境に届いたのだと思います。
 島津亜矢の歌と出会った事情から、わたしは彼女をどうしても演歌歌手という枠の中でのみとらえることができませんでした。また、わたしの欲求にこたえてくれるように、彼女は演歌という極北の地からワールドミュージックの海へと、たくさんの冒険をしてきました。Jポップをはじめ、ジャズやブルースやシャンソンなど、バラードに偏りすぎる傾向はありますが、演歌歌手の常識を超えた歌唱が年を追うごとに各方面から絶賛されるようなりました。今回のコンサートでもホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」を圧巻の歌唱力で歌い上げ、会場を魅了しました。
 しかしながらわたしは、島津亜矢の本当のすごさはジャンルにかかわらず、また歌唱力や豊かな声質と声量にのみあるのではなく、歌をほんとうに必要とする心に届く「聴きたい歌」を歌うところにあると思っています。ですから、どんな歌も彼女にとっては、大げさな言い方ですが人類の長い歴史の中でひとが抑圧され、時には歌うことを押し付けられ、時には歌うことを禁じられながら、それでも歌いたい、届けたい、伝えたいと願う大切なたからものなのだと思います。彼女の歌手人生を振り返ればそのたからものをいとおしみ、自分の心と身体をありったけ震わせながら歌いつづけた31年だったと思うのです。
 ここ最近、時代が彼女に追いつくようにあきらかに認知度も上がっていると思うのですが、どちらかといえばポップス歌手を凌駕する圧倒的な歌唱力が評価されるようになったと感じます。
 既成の演歌枠でも少しは動きがありますが全体としては相変わらずで、ほとんど音楽的な冒険とは程遠い鬱屈したプロデュースと手垢のついた構成演出で、少ない演歌ファンを取り逃がさないことに汲汲としていると言えば反論が来るでしょうか。
島津亜矢がのびのびとその稀有の才能を生かし、同時代を生きるたくさんの人々のディーバになることを夢見ると、どうしても演歌以外に活路を見出したいと思ってしまいます。
 なぜなら、島津亜矢の存在を知らなかった人が彼女のポップスを聴けば、圧倒的に人口の多いポップスファンを魅了することは間違いなく、事実そのようにしてポップスファンでありながら彼女のファンになる人が増えてきていると実感できるからです。
 しかしながら、その一方でかつては一世を風靡した演歌・歌謡曲がこのまま滅びてしまっていいのかと思う気持ちもまた、膨らんでくるのです。
 わたしは島津亜矢を知ってから美空ひばりをきちんと聴くようになりましたが、美空ひばりは歌手ではありましたが例外を除いて歌作りはしませんでした。しかしながら、彼女の歌手としての途方もない才能が同時代の歌作りの達人を刺激し、彼女が歌うことで完成する冒険を続けました。その結果、亡くなってもなお美空ひばりという巨大なプロジェクトが現役の歌手たちによって進化しているといっていいでしょう。
 わたしは島津亜矢が、とても不幸な形でそれを受け継ぐ数少ない歌手の一人だと思うのです。美空ひばりの場合はレコードのヒットによってスターであり続けましたが、島津亜矢の場合はほとんど絶滅種といわれる演歌・歌謡曲のジャンルでいわゆるメガヒットが出る可能性は少なく、といってこじんまりとその世界で安住するには才能が大きすぎて、いまはまだ歌のつくり手がどんな曲を提供したらいいのかわからないといったところだと思います。その生みの苦しみは、まだ当分つづくことでしょう。
 ですから、島津亜矢はまだ姿かたちが見えない「新しい演歌」、「島津演歌」をけん引するディーバとしての行方を定める方が本当なのかも知れないと思う気持ちもあるのです。
 そんなことを想いながら今回のコンサートに臨んだのですが、なんと島津亜矢は「初志」というタイトルをひっさげ、かたくななまでに16歳の少女から46歳の女性になるまでの間、恩師・星野哲郎の薫陶よろしく彼女が何度も振り返り修正して来た道にまた、戻ってきたのでした。これだけ幅広いレンジを持ち、歌唱力を越えた豊かな表現力を身に着け進化し続けながら、「演歌桜」から「なみだ船」、そしてかつて演歌少女として歌った「出世坂」を、まったく違った解釈と表現による「新しい演歌」としてよみがえらせたのでした。
 この時点で胸に突き上がるものがありましたが、今回のコンサートはとても地味なステージでしたが、31年目の島津亜矢がこれからの歩く道を決めた静かな覚悟と潔さにあふれたコンサートで、わたしにとって2011年2月にはじめて行ったコンサートとともに忘れられない思い出になることでしょう。
 あと少し、このコンサートについて書こうと思います。(つづく)

島津亜矢「出世坂」(16才)
演歌の天才少女といわれた16歳の島津亜矢はすでに演歌・歌謡曲が時代の袋小路へと追いやられていた頃に、その荒波に抗うようにひたむきに「演歌」を歌いつづけました。しかしながら、無理もありませんがそれは演歌のエチュードでしかなかったのかも知れません。

島津亜矢「出世坂」(2014年)
2014年、成熟した女性となった彼女が歌う「出世坂」はまったくちがう歌になっていました。もちろん、16歳の歌がよいと思う気持ちもありますが、彼女の場合、ナツメロになるのではなく、まったく新しい歌として今の彼女が獲得している全ての表現力でこの歌を歌っています。そのため、その頃でも時代錯誤と言われたであろう「出世」という言葉が、いまの方がまったく違和感がないとわたしは思います。星野哲郎がこの歌を「流行り歌」として提供したのではなく、島津亜矢に伝えたかった「歌のバトン」をこの歌に込めたのだと思うのです。
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2017.06.09 Fri 10:01

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tunehiko : URL Re: 「聴こえてくる歌」と「聴きたい歌」

2017.06.09 Fri 18:22

大津由紀雄様

コメントありがとうございます。
よく覚えています。天童よしみさんとのコラボについて書いた拙文を紹介していただき、
ブログで記事にしてくださいました。その説はありがとうごさいました。

今回のご指摘、ありがとうございます。いつも「聞く」と「聴く」の使い分けがよくわからなくて、
音楽の場合はすべて「聴く」にしていました。さっそくなおします。
ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。




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