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2016.09.09 Fri 「うたコン」と島津亜矢と紅白歌合戦

島津亜矢

 先日、ひさしぶりにNHKの「うたコン」を観ました。今年の4月に「歌謡コンサート」と「MUSIC JAPAN」を終了し、「歌謡コンサート」の時間帯に演歌・歌謡曲とJポップを融合した番組として出発したこの番組に期待していたのですが、正直のところすぐに興味をなくしてしまいました。
 もともと演歌・歌謡曲の砦として一部で根強いファンに支えられた「歌謡コンサート」にしても、2003年に妻の母親と同居するまでは「BS日本のうた」とともにそんな番組があることすら知りませんでした。そのおかげで、わたしは島津亜矢を知ることができましたし、昔好きだった森進一や北島三郎などの最近の歌にも出会うことができたのでした。
 しかしながら世の中の時計が止まり、新曲も懐メロと間違うぐらい次の節がわかってしまうような演歌の変わらなさにはいささか閉口気味で、とくに島津亜矢を知ってからはほぼ彼女が出演するときだけ観るという感じになっていました。もちろん、ベテランの歌い手さんがだんだんと声が出なくなってくるのをカバーしながら歌のクオリティを落とさないように並々ならぬ努力をしている姿や、勢いのある若い歌い手さんの怖いもの知らずの歌唱に心が動かされることはたくさんあります。しかしながら全体的に重苦しく、格式を重んじるような演歌界の雰囲気にはどうしてもなじめないものがあります。
 その中で、古い演歌・歌謡曲を瑞々しく歌い、「わたしはここにいるよ、あなたはどこにいるの」と誰かを探し、歌を必要とする誰かに届けるために歌う島津亜矢、何年も何十年も何百年も何千年も前からつながる「歌たち」の切なくもいとおしいリレーのアンカーランナーとして、心の闇のもっとも深い所から歌い続ける島津亜矢は、すでに演歌・歌謡曲という既存のジャンルから遠く離れた歌姫としてまっすぐに進む孤高の道しか残されていないのかもしれません。
 島津亜矢のオリジナル曲には恩師・星野哲郎をはじめ北島三郎、小椋桂などによる、世が世であればもっとヒットしていてもおかしくない秀逸な楽曲がたくさんあります。またアルバム「悠悠~阿久 悠さんに褒められたくて~」は阿久悠の未発表の遺作を演歌界屈指の作曲家が島津亜矢のために作曲した名曲ばかりで、はじめて島津亜矢という稀代の歌手に見合った音楽的冒険を追求したアルバムとして、レコード大賞の何かの部門賞を獲得しても不思議ではなかったと思っています。
 しかしながら既存の演歌枠のシステムの中ではヒットする可能性はそれほど高くないこともまた仕方がないことでした。それは楽曲の良しあしというよりは、演歌というフィールドの不自由さと市場の狭さが、島津亜矢という時代を越えた稀有の天才に見合うプロデュースを阻んできたのだと思います。
 その中で島津亜矢はCDセールスや音楽番組への出演だけに頼らず、全国津々浦彼女の歌を必要する人々に寄り添うように各地の会場でのコンサートを数多くつづけることで、自らの音楽の市場をつくりだしてきました。そのありようはどこか、わたしが働いていた豊能障害者労働センターをはじめとする社会的企業が市場を開拓してきたのとよく似ています。
 彼女の歌手生活31年は、「お前の喉と根性があれば大丈夫」といった恩師・星野哲郎の教えをかたくなに守って歌い続けること、ただそれしかありませんでした。
 
 とびぬけた声量と透き通った声を持ち、演歌からジャズまで圧倒的な歌唱力で聴く者を魅了する島津亜矢に注目するひとたちはファンであるわたしたちだけではなく、もちろん芸能関係者や音楽番組関係者のなかにも少なからずいて、その中には演歌・歌謡曲の番組編成を受け持つNHKのプロデューサーもいたことでしょう。
 かつては日本の国民的番組として君臨し、今でもジャンルを越えて数多くの歌い手さんの夢の舞台とされる紅白歌合戦への出場もかなわない島津亜矢を、彼らは密やかに根気よく自分の番組に出演させてきました。とくにまだ地上波のように出演する歌手が少なかった時代、BS放送創成期のNHK「BS日本のうた」への出演回数の多さから、「BSの女王」という異名をとるほどでした。
 それだけにとどまらず、彼女たち彼たちは島津亜矢の才能をより深め広げるために数々の冒険を要求し、島津亜矢もそれに応えることで天賦の才能にくわえて多彩な実力を磨いてきました。その果実はこの番組で島津亜矢が歌った歌を16曲ずつ収録したアルバム「BS日本のうた」シリーズとなり、8枚を数えるほどになりました。
 また、演歌・歌謡曲の看板番組だった「歌謡コンサート」では出場回数は少ないものの、根強いファンに支えられ、スバ抜けた歌唱力を持つ島津亜矢に番組そのもののクオリティを高める役割を求めてきたのだと思います。
 そんなことを思いながらわたしは、NHKの歌謡番組再編成の目玉となった「うたコン」が島津亜矢をどのように位置づけるのかに関心を寄せていたのでした。そしてまた、演歌・歌謡曲とJポップに分裂したままの音楽シーンに一石を投じ、ジャンルを越えた番組とすることで新しい日本の音楽が生まれる起爆剤にしたいと語ったこの番組のプロデューサーの言葉に強い期待を持ちました。
 しかしながら、まだ「生みの苦しみ」なのか、それとも今のコンセプトがこの番組の理想とする形なのかよくわかりません。ただ、紅白のバラエティ化が目に余る傾向がそのままこの番組に反映されていて、結局のところこれがこの番組のコンセプトならば、正直がっかりしてしまうのです。テレビ番組のバラエティ化は音楽番組に限らず、今やニュース番組はもとより天気予報まで浸透していて、それはまた現実の政治や経済にまで及んでいて、わたしはとても危険な匂いがします。最近の髙畑悠太の事件とベッキーの騒動とはまったく異質のものなのに、テレビのバラエティ化はそれらをごちゃまぜにし、暴力的かつ刹那的なバッシングでひとつの方向へとひとびとを誘導する危険は、そのまま政治の世界に持ち込まれています。
 話がずれてしまってごめんなさい。ともあれ、久しぶりに見た「うたコン」はバラエティ化がより進み、歌をまともに提供しているとは思えず、期待外れを通り越して絶望してしまいます。
 今回の放送の最悪の演出は大川栄策の「さざんかの宿」をわざわざ温泉地のロケにしながら、朝ドラの「とと姉ちゃん」で一躍人気となった相楽樹をからませた演出は、大川栄策にも相楽樹にもすこし気の毒な気がしました。相楽樹のぎこちないしぐさが瑞々しいとはいえ秘密の恋の雰囲気とは程遠く、歌をまともに聴けなくなってしまいます。
 この例に限らずすべての歌をバラエティにしてしまうことで、出演歌手もまたバラエティ番組への対応に力を注ぎ、歌をまともに歌わなくなるのではないかと危惧してしまいます。
 そのような傾向にあるこの番組に、はたして島津亜矢は受け入れられるでしょうか。彼女はどんなにトークで「ギャハハ」とはじけても決して歌に対する真摯な姿勢を変えないでしょうし、また変えることができない頑固なまでの矜持を持ち合わせています。
 もしかするとNHKの音楽番組関係者に「隠れ島津ファン」がいて、演歌のジャンルを越えた彼女のクオリティを高く評価していると感じてきたのは大きな間違いだったのかとさえ思いなおしてしまうのです。
 現にスケジュール等の理由とは違う力で、この番組への島津亜矢の出演回数がめっきり減っているのが気になります。三山ひろし、山内惠介、市川由紀乃の露出がめだつ中、ベテランとされる演歌歌手の出演回数が少なくなる中に、島津亜矢も含まれてしまってはたまりません。それでは、島津亜矢を相変わらず演歌の枠の中でしか見ていないことになり、紅白の出場もまた演歌枠の中で座席を取り合うことになってしまうのでしょうか。
 わたしはNHKの隠れ島津ファンが演歌のジャンルを越えた彼女の歌唱力を評価し、この番組の始まりにプロデーサーが宣言した「新しい日本の歌」を担う歌手としてシンパシーを感じてくれていたと信じているのですが…。

 百歩譲って島津亜矢ファンであることから離れ、ポップスファンでもあるわたしから観ても、この番組にただよっている「歌を大切にしない」姿勢はなんとかしてもらいたいと思います。すくなくとも「MUSIC JAPAN」では新人歌手の登竜門として数多くのバンドや歌手がしのぎをけずり、その必死さが支持を得ていたことを思い出してもらいたいのです。
 「木曜八時のコンサート」が数多くの演歌ファンの期待をあつめながら、「金曜七時のコンサート」になってまだ日が浅いのに番組終了となりました。バラエティ化を進めることでひとつひとつの歌のグレードが甘くなってしまったその轍をふまないように、「うたコン」に頑張っていただきたいと思います。

島津亜矢「 恋慕海峡」

島津亜矢「風雪ながれ旅」

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亜矢ファン : URL

2016.09.09 Fri 16:00

こんにちは、
お久しぶりです。
私は、こう思います。
Nhk、ティチクも、亜矢さんの
素晴らしい才能は、分かって
要ると思います。ただ亜矢さんが
上手すぎるゆえに、先輩たちの
一緒に歌いたくない、後に歌うのもいや
オリジナルを、歌わせたくない
と、そんな空気が1年前から皆のブログ、
そしてテレビを、見ていても伝わってきます。バレバレです
最近特にインパクトの強い歌を、歌わせてもらえません。亜矢さんが人気を全部
持っていくからです。亜矢さんが
怖いんです。逆に、亜矢さんを尊敬し
負けるものかと、競い合えばどんなに
演歌が盛り上がったでしょう。
何でも思いきって歌ってた昔のBS の亜矢さんが懐かしいですですね。

tunehiko : URL ありがとうございます。

Edit  2016.09.09 Fri 16:34

亜矢ファンさま
早速のご意見ありがとうございます。
今回の記事は少しネガティブなものになってしまい、反省しています。
まだ40代の亜矢さんには、時間がたっぷりありますから、これからもいろいろな冒険ができます。不安としてとても楽しみです。

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