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2016.08.30 Tue 島津亜矢「夫婦春秋」 NHK「思い出のメロディー」

島津亜矢2016年

 少し前になりますが8月27日、NHK「思い出のメロディー」に島津亜矢が出演し、「夫婦春秋」を歌いました。
 この歌は村田英雄が1967年、歌手生活10周年を記念して発表した曲で、関沢新一が作詞し、市川昭介が作曲しました。その後1979年頃に再ブレイクし、同年に日本作詩大賞特別賞受賞、それに続いて「夫婦酒」がヒットするきっかけになりました。「無法松の一生」でデビューし、「人生劇場」などいわゆる男歌のイメージが強かった村田英雄ですが、1961年の最大のヒット曲「王将」をはじめとして夫婦愛を歌う歌は数少ないものの、彼のまたちがった魅力を引き出した一曲です。 
 島津亜矢は昨年、島倉千代子の「東京だよおっ母さん」を歌い、生まれ故郷に帰れず戦死した兄の魂の弔いを心に秘めた母親のために、東京を案内する妹の心情を見事に歌ったのが記憶に残っています。1957年に発表されたこの歌には戦後の復興から高度経済成長へと走りはじめ、「もはや戦後ではない」と経済白書が宣言した時代に、帰るべき故郷をなくしたまま他国の地に塁を築く無数のたましいと、額縁の中の写真を磨くことでしか帰らぬひとのたましいを迎えることができない家族の「戦後はまだ終わっていない」という心の叫びが聞こえるようでした。
  「思い出のメロディー」という番組はいわゆる懐メロの番組ではなく、いまもまだ戦後71年を生きたひとびとの人生という記述されない歴史と、決して忘れてはならない「あの時」を歌で思い出す役割を持っているのでしょう。
 そう考えると、今年島津亜矢が歌った「夫婦春秋」にもその時代の記憶がぎっしりつまっていて、彼女はそのひとつひとつの記憶をおそるおそるほどくように歌い、リクエストされた方はもちろんのこと、会場におられたひともテレビでみていたひとも歌詞の一句一句をかみしめるように聴かれたことと思います。
 島津亜矢のファンの方々の中には美空ひばりの名曲などを彼女に歌ってほしいという願いがあるのを承知していますが、わたしは島津亜矢に「夫婦春秋」を歌わせたこの番組のプロデューサーの慧眼に拍手を送りたいと思うのです。先ほども書きましたが、「思い出のメロディー」という番組にもっともふさわしいこの歌を歌える人は島津亜矢の他にいないと、わたしもまた思うからです。
 この歌が発表された1967年、第二次佐藤内閣が発足した一方で美濃部東京都知事が誕生し、わたしの個人的な記憶ではタイガースなどグループサウンズが席巻し、ビートルズが衛星中継で「愛こそすべて」をライブ演奏した年でもあります。
 世の中は俗に「いざなぎ景気」という戦後最長の好景気で、「夫婦春秋」は戦後の混乱から復興をへて高度経済成長へと日本全体が大きく変貌するただ中にいて、つつましくもささやかな夢と希望につつまれながら、つらく苦しかった人生をふりかえる夫婦の心情を歌った歌です。「東京だよおっ母さん」から10年がたち、戦争中の記憶どころか、戦後そのものが遠く追いやられそうになる世相に、またしても歌謡曲によって記憶をよびもどされた名曲の一つだとわたしは思います。
 わたしは若いころにはすでに歌謡曲を聴かなくなっていたので村田英雄が歌うこの歌を知りませんでしたが、島津亜矢のアルバム「BS日本のうた7」に収録されていたことからこの歌をはじめてきちんと聴くことができました。
 この歌を聴きながらわたしは、この歌の歌詞というか語りを夫が妻にほんとうに声を出して言っているのか、それとも心の中でつぶやいているか、ずっと考えていました。そして、少なくとも島津亜矢の「夫婦春秋」は1967年という、「男が仕事で女が家庭を守る」というのが当たり前と思われていた時代に、直接声に出せない頑迷で不器用な夫が心の中で妻に感謝する歌なのだと思うのです。
 実際、島津亜矢の歌を聴くと見事な歌唱に圧倒されるだけではなく、彼女がこの歌をどのように受け止め、どのように理解し、それをどのように伝えようとしているのかと思ってしまうのです。
 わたしが聴くことのできる島津亜矢の「夫婦春秋」の音源は3つあります。一つ目は1998年に彼女が20代後半に歌った時のユーチューブの映像、二つ目はアルバム「BS日本のうた7」の収録、三つめが今回の番組です。もちろん、古くからファンの方はコンサートや古い歌番組で聴いておられるかもしれませんし、わたしも2011年からはコンサートに必ず一度は行ってますので、聴いているかもしれません。
 それぞれ少し違いはありますがどの時も稀代の歌手・島津亜矢の歌唱は素晴らしいものがあります。その上で20代の時はのびのあるナチュラルな歌声と、演歌の王道の小節とうなりが無理なく入ったみずみずしい歌唱です。アルバム「BS日本のうた7」は2012年の発売ですが、ここ数年の島津亜矢の進化はファンであるわたしの想像と願望をはるかに超えていて、このアルバムのスタジオ録音とミキシングによる音源と、今回の一発勝負のライブとその時のPA(音響)に左右される音源では単純に比較できないのですが、あきらかな違いを感じるのです。
 たしかに聴きようによっては若い時の方がよいと言われる方々もたくさんおられることでしょう。実際、若い時の島津亜矢の圧倒的な歌唱力は聴いていて痛快で、それまでむしゃくしゃしていた気持ちも吹っ飛んでしまう清涼剤の役目を果たしています。
 しかしながら、最近の島津亜矢の歌はもしかすると歌に対して思い悩んでいるのかなと勘違いするぐらい丁寧な歌唱と若い時のようなブレスがはいらないこと、声量が衰えたのかなと思うぐらいマックスを抑えることでむしろより遠くまで聴こえる歌唱法、そして聴いていてぞくっとするほどセクシーで肉厚がある低音とさまざまあります。
 しかしながら最大の違いは単に歌のうまい演歌歌手の歌ではなく、自分が感じたその歌の心を誰に伝えたいのか、「歌を語る」のではなく「歌を詠み」、「聴く人に歌を歌う」のではなく「聴くひとの歌を聴く」、その真摯な姿勢にあり、歌を歌っているときの彼女の美しさにあると思います。
 この歌に限らず、古くから歌っている歌の時々の映像と今の島津亜矢を聴き比べる楽しみは、他の歌い手さんでは味わえないものがあります。
 ともあれ今回の歌唱も期待以上で、「思い出のメロディー」という番組にふさわしいものになり、それまでにぎやかだったステージを引き締める役割を果たしました。
 きっとこの番組のプロデューサーの信頼もより厚くなったのではないでしょうか。

島津亜矢「夫婦春秋」

村田英雄「夫婦春秋」
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蒼士 : URL

Edit  2016.09.04 Sun 20:53

こんにちは、蒼士です。
誰にでも思い出のメロディーがありますよね。
そこに焦点を当てた番組はとてもいいと思います。
J-POPばかりでもだめですからね。
たまには演歌を聞きたい、歌謡曲を聞きたいという方も
当然いるはずですからね。
音楽はいいですね。
それでは応援して帰ります。

tunehiko : URL ありがとうございます。

Edit  2016.09.09 Fri 16:30

蒼士様、いつもありがとうございます。ごめんなさい。ずいぶん前にコメントをいただいていたんですね。
思い出のメロディーは最近の「うたコン」とくらべて、しつかりとつくられている番組だと思います。
歌にはその時代を生きた百人百様の思い出があり、その思い出が歌をそのひとの人生に特別な感情や意味をもたらすのでしょうね。

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