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2016.07.22 Fri 島津亜矢「思い出のメロディ」と「SINGER3」とオリジナルポップス曲

島津亜矢「syinger3}

 大橋巨泉さんが亡くなられました。永六輔さんの後を追うように、激動の昭和が足早に去っていきました。
 大橋巨泉さんもまたジャズからアメフトまで、幅広い視野と見識でテレビの可能性を大きく広げた人ですが、その中でもお色気番組として有名な「11PM」での韓国併合とその後の植民地政策の特集番組は、わたしの人生を大きく変えた出来事でした。
 わたしはこの番組で紹介されたシンガーソングライターのホン・ヨンウンにほれ込み、わたしが企画していたコンサートに出演してもらいました。そのコンサートは時の衆議院選挙を盛り立てようと地域の労働組合と開催したイベントの一つでしたが、1000人会場のコンサート会場にまったく人が入らず、「客は集めるから、舞台の出演者だけ呼んできて」という言葉を信じたわたしの大きな失敗でした。ホン・ヨンウンにはほんとうに申しわけないことをしてしまいました。その後にわたしが企画したライブに出てもらう機会のないまま、彼は亡くなってしまいました。
 永六輔さん、大橋巨泉さんの訃報や、わたしの身の回りで起きた小さな事件に揺れる心を鎮めようと思い、久しぶりに島津亜矢の「SINGER3」を聴いています。
 座長公演が大阪、東京と続き、テレビの音楽番組への出場がずいぶん遠ざかっていますが、ようやくNHKの夏の紅白といわれる「思い出のメロデイ」への出場が決まり、喜んでいます。
 昨年のこの番組では島倉千代子の1957年の大ヒット曲「東京だョおっ母さん」を歌いました。この歌は2番の「桜の下」という歌詞が靖国神社を歌っているということでかのNHK自身が「紅白」で歌わせなかったとか、2番の歌詞を歌わせなかったという話があります。そんな「政治的」な圧力をものともせず150万枚という空前のヒット曲になったのは、新しい戦後民主主義がどんなに明るい幸福幻想を振りかけてみても、ひとの心の中にある傷つき、消えてしまったたましいを悼む心情は暗くよどみ、戦後71年になる今も蠢いている証なのだと思います。その心情のよりどころを当時の多くのひとびとが靖国神社に求めたとしても、母親たちの悼む心が間違いであるはずはないでしょう。
 わたしはすでにみなさんもご存じのように「武力による紛争解決」を放棄し、国家が個人の自由を脅かすことのないように基本的人権や国民主権、表現の自由を最大に優先することを宣言する「日本国憲法」を世界に先駆け、世界に誇るものと思っています。
ですから「東京だョおっ母さん」のような歌が二度と歌われることのない社会を次の世代に手渡さなければと思うのです。だからこそわたしたちは国のためにと武器を持たせ、おびただしい数のたましいを奪い、消し去ったことを深く心にとどめなければならないと思います。
 国家が自衛隊のひとびとを外国の紛争に参加させ、わたしたち国民の人権を著しく制限しようとしている今だからこそ、「東京だョおっ母さん」はそのことの恐ろしさや戦争の悲惨さを歌い残す大切な歌だと思います。
 この歌を誰に歌ってもらうかとNHKの製作チームが考えて、いわば「右からも左からも」文句が出にくく、火中の栗を拾える歌手は島津亜矢していないと指名したのだとしたら、その慧眼に敬意を表したいと思います。事実、たとえば「戦友」を堂々と歌い、反社会的と敬遠されることもある侠客ものの「瞼の母」を歌う島津亜矢は、その歌の出自や歌詞を乗り越え、「たったひとつぶの涙をむだにしない」願いをわたしたちの心に届け、残すことのできる稀有の歌手だからです。
 もしNHKに隠れファンがいるとすれば、彼女彼らが島津亜矢に何を歌わせるのかとても興味をそそり、それはもしかすると紅白にまで波及する試金石かもしれません。昨年の島津亜矢の紅白出演が単なる「演歌枠」だったのか、それともまだ未成熟な新しい日本の歌謡曲の担い手として選ばれたのかもはっきりするかもしれません。

 さて、「SINGER3」については発売当時に記事にしているのですが、あらためて聴きなおしてみると新しい発見があります。まず、今回の収録曲は全曲ポップスといっていいでしょう。たとえば「黄昏のビギン」は永六輔・中村八大コンビによるジャズを基本にしたポップスを、名ボーカリスト・水原弘が日本的要素を色濃く歌い、「黒い花びら」や坂本九の「上を向いて歩こう」とともに独自の「日本のポップス」を開拓しました。
 「黄昏のビギン」はちあきなおみによって大きく再ブレイクし、その影響が強くてバラード風に歌う人が多いのですが、島津亜矢はリズムセッションがしっかり入るオリジナルのアレンジで歌っています。
 1975年の沢田研二のヒット曲「時の過ぎゆくままに」は本人が主演した三億円事件をテーマにしたテレビドラマ「悪魔のようなあいつ」の挿入歌でしたが、阿久悠の歌詞も大野克夫の曲も退廃的なだけでなく、その後のセクシーで危険な香りがただよう沢田研二の方向性を決定づけた歌になりました。この時代の阿久悠もまた沢田研二を通していままでにない歌謡曲をつくろうとしたのだと思います。
 島津亜矢は、ここ何年かの間に演歌やロックの歌いきるモノローグだけでなく、ジャズやブルース、ソウルのダイアローグの歌唱法を身に着けました。それがホイットニー・ヒューストンの名曲やリズム&ブルースにまで足跡を残すところにまで歌の可能性を広げる一方、「時の過ぎゆくままに」や「TAXI」など、新しい日本のポップスの意欲作も歌いこなす実力も身に着けたのだと思います。
 これらの収録曲に限らず、このアルバムは今までの「SINGER」シリーズ2枚とちがい、すでに演歌歌手という出自を大きくはみ出し、アイドルの斉唱とダンスミュージックが席巻する日本のポップスの原点を求めるもので、その点ではポップスの歌い手さんによるカバーソングとは一線を画したエッジのきいたものになっているのではないでしょうか。
 そして、さらにいうならば演歌のジャンルだけではなく、ポップスも含めた音楽的な停滞を打破するためには島津亜矢もまたカバーから一歩踏み出し、オリジナルのポップスを歌う可能性も探ってみてもいいのかもしれません。
もしコストも時間も許すならば年に2回、ひとつは演歌で、もうひとつはポップスで作品を発表することで、「うたコン」など音楽番組の露出度が少なくても独自のムーブメントを生み出せるのではないでしょうか。
 その場合は演歌のジャンルでは実現できない、作り手とのコラボレーションがあり得ます。友人から聞いた話ですが、中島みゆきが「オールナイトニッポン」で島津亜矢の「糸」をかけ、「このひとは景気がいいですよね。いいです。あの方の雰囲気好きです。」と言ったそうです。実力のあるポップス歌手が競うように「糸」をカバーしているにもかかわらず、演歌歌手の島津亜矢の「糸」を流してくれたのはファンとしてはとてもうれしいことで、中島みゆきに作ってもらうというのはそんなに無理でもないのではないかと思ってしまいます。
 宇多田ヒカルの音楽活動再開もビッグニュースで、朝ドラの主題歌を作った経緯もあり、今年の紅白出場もうわさされています。宇多田ヒカルの新曲を聴くと、リズム&ブルースをベースにした新しい歌謡曲になっていて、おかあさんの藤圭子の才能がかくれている宇多田ヒカルならば、もうひとつ進化した歌謡曲(リズム&ブルース)が島津亜矢を通して実現できるかもしれません。

このブログのアクセス数が30万を越えました。島津亜矢さんのファンの方々をはじめ、みなさんの応援のおかげです。
ありがとうございます。

島津亜矢「東京だョおっ母さん」 

島津亜矢「糸」
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