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2016.01.02 Sat 島津亜矢「帰らんちゃよか」 紅白歌合戦

 昨年の12月31日、島津亜矢が紅白歌合戦に出場し、「帰らんちゃよか」を歌いました。
 午後7時15分から始まった番組の前半、15人目に歌った島津亜矢のステージは、それまでのアイドルやJポップシンガーの見た目の華やかさはありませんでした。黒っぽいステージにやや暗めの素灯りという、美輪明宏の「ヨイトマケの唄」に次いでシンプルな演出でした。
 さらにはフルコーラスはおろか、かなり縮小されたバージョンでしたが、歌い始めた途端それまでの番組の空気が一変しました。無尽蔵といっていいほどの声量があるにも関わらず、最近の島津亜矢は「歌い切る」歌唱ではなく、聴く者の心に「歌い残す」歌唱を獲得し、そのことでかえって声量が活かされる領域に達し、美空ひばりやちあきなおみなど、天才といわれた先人たちがたどった道を着実に歩いていると思います。
数限りなく歌ってきた「帰らんちゃよか」ですが、この日の歌はどこか音楽の女神が彼女をもうひとつ高い所へと導いてくれたような歌でした。前回の記事で泉谷しげるのことを書きましたが、島津亜矢はまさしく泉谷しげるが言葉で呼びかけたひとたちの心に、大みそかの夜、あるひとは膝をかかえながら、あるひとは冷たい星空を見つめながら、愛を必要とし歌を必要とする心にひそやかに、ありったけのエールを送ったのでした。

 ここ数年、とみに目立つテレビ番組のバラエティ化は報道番組や教育番組にまで波及していますが、その中でも音楽番組のバラエティ化は際立っていて、紅白歌合戦もまた民放の年末特集番組と競うように年々その傾向を強めています。たしかに年に一度の国民的お祭りととらえれば単なる歌番組ではなく、ポップスから演歌・歌謡曲までの大衆音楽の特別なショーとして華やかなステージになっていくことは当たり前のことなのでしょう。
 大衆から個衆、個衆から孤衆へと社会の構成要員が細分化され、「お茶の間」という言葉がすでに死語になっている今、戦後の大衆音楽のひとつの大きな拠り所であった紅白もまた、その役割が終わろうとしているのかもしれません。
 しかしながら、細分化された個となったわたしたちだからこそ、つながっていたいという願いもまた切実なもので、最近のライブブームはCDからダウンロード、ストリームというデジタル化された音源とは別に、100人から何万人にいたるまで特定の時に特定の場所に集まり、一人の歌手、一つのグループのライブパフォーマンスに酔いしれ、共に歌い踊り、つながりを求めようとするからなのでしょう。
 その流れの中ではテレビの役割もまた大きく変化せざるをえず、誰にでも受け入れられる番組など存在しようもなく、特定の歌手のライブほど極端ではないもののロック・ポップスや演歌・歌謡曲、時にはジャズや民謡などの大まかなジャンルに分かれた番組づくりをするようになって久しく、それはまた音楽シーンが70年代からフォーク、ニューミュージック、Jポップへと進化する一方で、従来の歌謡曲が現代演歌へとジャンルの幅を狭めることになったことにつながっていると思います。
 その事情からも紅白が年に一度と言っていいくらい、演歌・歌謡曲とJポップから選ばれた歌手が一同に会す音楽番組である以上、できるだけ多くの視聴者の要求に応えるための緩衝効果としてのバラエティ化が番組構成上必要なのだと思います。
 
 わたしは島津亜矢が紅白に出ることを半分望み、あと半分は紅白に引きずりまわされない歌手でいてほしいと思う気持ちがあります。紅白に出演しなければしないでNHKの紅白の制作担当者の音楽センスを批判し、今回のように出演したらしたで、はたして島津亜矢の歌がバラエティ化した紅白になじむのか、ましてやド演歌ならまだしも、「帰らんちゃよか」のような口に出す言葉とその裏にある心情が複雑に絡む切ない歌を真摯に聴いてくれる人がファン以外にどれだけいるのか、とても不安でした。
 案の定、彼女の出番までは、アイドルは失礼ながら存在自体がややバラエティ化していますし、かろうじて今回初出場の三山ひろしや山内恵介が過剰な演出もなくたったひとりで歌いましたが、その他のベテランの演歌歌手にはやや過剰な演出もありました。わたしはバラエティ化にもまた構成上の演出もけっしてダメとは思っていませんし、先ほど書きましたように紅白の性質上、そうすることで出来るだけ多くの視聴者に自分が関心のない音楽にも親しんでもらうきっかけにしたいという演出意図も理解できないわけではありませんが、肝心の歌手の歌唱を妨げては元も子もないのではないかと思うのです。
 それはともあれ、そんな見た目の華やかさとは真逆の歌がどれだけ受け入れられるのかと心配したのは取りこし苦労でした。できるなら、フルコーラスで歌えばもっとたくさんのひとの心に届いたのではないかと悔いもありますが、彼女はいつも与えられた中で精いっぱいに表現する努力を惜しまないひとですから、短い中にもメリハリの利いた丁寧な歌い方で、この歌の持つ風景や心情を見事に表現してくれたのではないかと思うのです。
 事実、島津亜矢のファンが運営されている「亜矢ちゃんツイッター」には、絶賛のメッセージが数多く寄せられています。もちろん、ファンサイトですから批判的なメッセージはありませんが、それでも演歌を聴いたこともない人からの絶賛が数多く寄せられ、「泣いてしまった」という人もたくさんおられます。
 紅白のよい所は別れてしまったJポップと演歌・歌謡曲の歌手たちの共演が触媒となって思いもかけない歌や歌手と出会うことだと思うのですが、島津亜矢が演歌を知らないひとたちに衝撃すら与える稀有な歌手であることを、今回の出演で証明してくれたのではないでしょうか。

 島津亜矢さんが紅白に出演することになり、わたしのマイナーなブログも大賑わいになりました。しばらくは落ち着いていたのですが、紅白の放送直後からまたアクセス数が急増しました。調べてみると、ほとんどの方が実際の番組を聴き、興味を持たれて検索されてヒットしたという具合で、ファンの方やわたしのブログ自体の読者以外の方がほとんどです。
 わたしの記事を読んでがっかりされた方がいらっしゃったらお詫びしますが、もしこれを機会に島津亜矢さんに注目していただければありがたいです。

亜矢ちゃんでツイッター - nifty

島津亜矢「帰らんちゃよか」
最近の歌唱でフルコーラスです。しかしながら、この歌唱すら、今回の紅白の縮小バージョンと聴き比べると色あせてしまうほどです。島津亜矢という人は大舞台を契機にいつも大化けすることを今回も見事に証明してくれました。

島津亜矢「I Will always Love You」 ラジオ番組(メロウな夜)より

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