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2015.07.02 Thu 島津亜矢・神戸コンサート

 6月27日、神戸のコクサイホールで開かれた島津亜矢のコンサートに行ってきました。
 今年のコンサートツアーのコンセプトタイトルは「矜持」で、意味は自信を持って堂々とふるまうことのようですが、昨今の島津亜矢はまさしくこの言葉がぴったりだと思います。
 前回に行ったのは新歌舞伎座でしたが、この時は体調が良くなかったと後から聞きましたが、今回は体調もよかったのか声量はもちろん、声のねばりといったらいいのかとてもメリハリの行き届いた声で、わたしにとって今までで一番聞きやすく、楽しめたコンサートでした。わたしは一階の後ろの席で、それがよかったのかはわかりませんが、PA(音響)もすばらしく感じました。
 というのも、彼女のコンサートの音響はどちらかというと派手な音響で、とくに高音が利きすぎて時々甲高く聴こえ、島津亜矢のもっともすぐれた音域の一つである高音のクリアでナチュラルな声質がそがれてしまうように感じることが多いのです。
 本来音響は、電気を通していることを感じさせないのが最高だと思っているわたしですが、実際は歌い手さんの苦手な部分をカバーすることを目的とする場合も多々あるようです。島津亜矢の場合は名手が奏でる管楽器のごとく、他に類のない天賦の声を持っていますので、音響の技術は本来の目的である会場のどの場所でも問題なく聴こえるためにだけその匠の技を発揮してもらいたいと願っていました。
 とはいうものの、会場によってそれぞれ音の吸収も反響も違いますし、実際のところ座席の位置によってもちがいますし、その上で本人の声の調子もあり、また聴き手の好みもありますから、音響の方のご苦労は大変なものであることは素人ながら少しは触ったことがありますのでよくわかっているつもりなので、その時その時の精いっぱいの努力をされていることに敬意を表しつつ、ついついわがままを言ってしまうのです。
 その意味で、今回の音響はわたしにとってはほんとうにすばらしいものでした。

 さて、コンサートのオープニングは「大器晩成」でした。幕が上がると階段の中央に島津亜矢が立っていて、後ろの背景は富士山でした。たまたまテレビでどんどん派手になって行く最近のJポップの歌い手さんのコンサートのオープニング特集をしていました。
 Jポップのジャンルも観客数は演歌を圧倒するものの、その分競争相手が多くどんどんとエスカレートしていき、すでにショーというレベルではない刺激を用意しなければならなくなっているように思います。もちろんお客さんに楽しんでもらためのさまざまなサプライズで、お客さんもそれを楽しみに足を運ぶのですが、その特集番組を観ていてわたしは心寒くなってきました。
 近代の資本主義市場は長い間「もの」を行き来させてきたけれど、高度経済成長の果てに「健康」や「医療」、「保険」など、人間の体そのものを開拓する一方、実体経済からはるかにかけはなれた「お金」そのものが市場を席巻する金融資本主義へと移ってきました。
 そして、とうとう人間の心を開拓する芸能のジャンルの極度の市場化へと進み、今では観客動員数が何十万というコンサートが日常茶飯事で、そのステージで繰り広げられる観客の五感をこれでもかこれでもかと刺激し続けるパフォーマンスは、すでに歌が歌だけでは成立しない、満足させられないことを証明しているのでしょう。
 それにひきかえ、島津亜矢のステージは時代錯誤そのもので、キッシュで庶民的で、銭湯の富士山を思い出させるオープニングですが、なぜかわたしにはとても心安らぐのでした。歌を歌い、歌を聴く以外に約束事のないシンプルさは、Jポップの複雑怪奇な「クールジャパン」の卑猥さと正反対にあるもので、もしかするとアジアをはじめとする外国では彼女の振り袖姿の方がわかりやすいイコンなのではないかと思います。
 ともあれ、オープニングの「大器晩成」を聴くだけで、このコンサートが今まで以上にいわゆる「演歌」や「日本的なもの」、「古き良き時代の歌謡曲」が歌われることを予測できました。
 恩師の星野哲郎の作詞では「海鳴りの詩」が復活し、「海で一生終わりたかった」で星野哲郎の海への思いを歌った後、美空ひばりの「みだれ髪」と北島三郎の「風雪ながれ旅」を見事に歌い上げました。「みだれ髪」は美空ひばり特集の番組では先輩の歌手が歌い、なかなか彼女にまわってこないみたいですが、自分のコンサートではよく歌っています。
 この歌は美空ひばりの病後の復帰歌として有名な名曲ですが、島津亜矢の歌う「みだれ髪」は星野哲郎の歌詞そのままに波の音が心のざわめきに共鳴するようで、美空ひばりのオリジナルよりも心みだれて恋い慕う大人の女の色気がただよっていて、ぞくっとする一曲でした。
 「風雪ながれ旅」は北島三郎にとっても特別な歌ですが、「みだれ髪」から一転し、暴力的ともいえる吹雪の中をしびれた指で津軽三味線を弾く高橋竹山の心の叫びが風雪に掻き消えていく様子が目に浮かんできます。島津亜矢の硬質で透明で雪の結晶のような声はまるで管楽器そのもの、他の演歌歌手がつま弾くギターのような弦楽器の声質が多い中、島津亜矢の声は表面的にはあまり特徴がない、というより癖のないクリアな声でありながら、いつまでもその歌の物語が心に残ってしまうのでした。
 その後、「戦友」が歌われます。ここでも「矜持」というタイトル通り、格別の覚悟と信念とともに、それを完璧に歌い上げる歌唱力への自身がなければ歌えないこの歌を歌い切ることで、わたしよりもう少し年上の方で戦前戦中戦後と特別の経験をされたお客さんと過ぎし時代を共有する島津亜矢に感動します。個人的にはこの歌は好きではないのですが、安保法制で大きくゆらぐ今、この歌を歌う島津亜矢の歌手としての「矜持」には敬意以外にありません。
 ここからしばらくバンドの演奏がある間に白いドレスに着替え、「少年時代」、「酒と泪と男と女」、「ニューヨーク・ニューヨーク」と演歌以外の歌を歌い、一部が終了です。
 このあたりからは次の記事とさせていただきます。

 仕事の忙しさもあり、今回は報告が遅くなってしまい、その後のテレビ出演のことまで書けないと思いますが、島津亜矢がかわいそうとファンの方々に不評だった今日放送の「ごきげん歌謡笑劇団」は予想していたよりもよかったと思います。反対に島津亜矢の毅然として凛々しい(?)素敵なところもじゅうぶん演出されていたと思いました。

島津亜矢「大器晩成」
2006年のリサイタルの映像です。若い!若いです。その若さでこんなにも完璧に歌ってしまったらもう後がないとも思うのですが、ここからまだまだ島津亜矢は進化し続けるのでした。

島津亜矢「大器晩成 」作詞大賞(2005年)
ファンならずとも、何度見ても涙があふれます。島津亜矢ほど無冠の女王はいないと思いますが、彼女にとってこの賞は星野哲郎が彼女にプレゼントした人生の最後の宝物だったのでしょう。島津亜矢に「あなたのおかげだよ」と声をかける星野哲郎と、泣きじゃくる島津亜矢の健気さがいつまでも忘れられません。

島津亜矢「みだれ髪」(演歌の夢祭り大阪)

美空ひばり 「みだれ髪」

藤圭子「みだれ髪」
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