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2015.04.24 Fri 島津亜矢「地上の星」

 4月21日、NHK「歌謡コンサート」に島津亜矢が出演し、番組のオープニング曲として「人生一路」を歌い、その後もう一曲「地上の星」を歌いました。
 中島みゆきは数多くの女性歌手に歌を提供してきたばかりではなく、そのオリジナル曲を多くの歌手がカバーしています。
 島津亜矢もその例外ではなく、中島みゆきのデビュー曲「アザミ嬢のララバイ」やそれにつづく初期の楽曲「時代」、「地上の星」、「紅灯の海」、「化粧」、「かもめはかもめ」などをカバーしています。
 島津亜矢はオリジナルでもカバーでもどの歌に対しても真摯に向き合うことでよく知られていますが、特に中島みゆきの歌を単なるカバーではなく、尊敬と憧れをかくさず身の丈を越える精いっぱいの心を込めて一生懸命に歌っている姿をとても愛おしく思います。
 その中でも「地上の星」はコンサートでもよく歌っていて、彼女のコンサートを一番盛り上げてくれる曲のひとつといえるでしょう。
 わたしは2000年発表の「SINGER」に収録されていたのをきいたのが初めてですが、その後は2014年発表の「BS日本のうた8」にも収録されているのと、コンサートの定番曲の一つともいえ、何度も生ライブで聴かせてもらっています。
島津亜矢は、不確かな夢と後悔、無償とは言えない愛と裏切り、ひとの心をヒリヒリさせる熱情と絶望などなど、ひとりの女性の激情が時代の大きな物語と共振する中島みゆきのドラマチックな歌づくりの鉱脈にまでたどり着こうと努力してきました。
 「地上の星」においてはその努力は特別なもので、1970年代から現在に至るまで、さまざまな作風で作り続けている中島みゆきの数々の名曲の中でも、島津亜矢の思い入れが半端ではない一曲です。
 今回はその中でも特別で、いま現在において最高の歌唱だったと思います。
 これまではそうは言っても中島みゆき本人のオリジナルへのリスペクトが色濃く残り、それでなくても中島みゆき、ちあきなおみ、美空ひばりの熱烈なファンの方々からは「オリジナルは越えられない」というような不毛な評価をされることもありました。それはほんとうに不毛な評価で、そんなことを言っている限り、日本の音楽シーンは欧米のジャズやロックのような柔軟性を持つことができないのではないかと思います。
 しかしながら、歌い手さんもまた彼女たちの壁を乗り越えられずにいることも事実で、NHKの「歌謡コンサート」が毎年「美空ひばりを歌い継ぐ」という特集番組を組み、現在のトップシンガーといわれる演歌歌手が美空ひばりの歌を歌うのですが、ほとんどの歌手が美空ひばりの歌唱の世界から抜け出せていないようにわたしは感じます。それは少し表現が違うかも知れませんが、小室等さんが「ぼくたちはまだビートルズの音楽を越える音楽もつくれていないし、また歌ってもいない」といったことがありますが、まさにそういう感じで、もういい加減に美空ひばりの呪縛から解き放たれたらどうかと思います。美空ひばり自身の歌の足跡を見れば、彼女が音楽のジャンルを越え、ボーダレスに音楽的冒険を求め、先人が踏み込まなかった荒野を勇気をもって突き進んできたことからして、彼女の音楽の中から抜け出せない今の歌い手さんを見て歯がゆい思いをしているのではないかと思います。
 そして、ファンの手前味噌と言われようが一向に構わないのですが、島津亜矢はその呪縛から解き放たれ、美空ひばりが歩みを止めてしまった音楽の荒野の先をめざして歌いつづける数少ない歌手のひとりだとわたしは思っています。
 ちあきなおみの場合は「演歌」という領域にはまらず、また本人もそれを一番嫌がっていたように思うのですが、演歌特有のコブシやうなりがまったくと言ってない彼女は、そのかわりに歌もまた3分間のドラマという言葉以上に、3分間の中に演劇性を持ち込み、歌うのでもなく物語るのでもなく「演じる」歌の領域を拡張しました。
 島津亜矢がずいぶん前に歌い、「BS日本のうた2」にも収録されている「かもめの街」はちあきなおみのファンからきつい評価を受けたみたいですが、その頃は島津亜矢がまだ若く、非の打ちどころのない「天才歌手」以上のものではなかっただけのことで、今ならとても同じ歌とは思えない劇的な表現力でちあきなおみとはちがう「かもめの街」を聴かせてくれることでしょう。
 おなじことが中島みゆきの「地上の星」にも言えるようで、この歌を主題歌としたあのNHKの「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」で放送された人々のように脚光をあびることもなく去って行ったひとたちや、高度経済成長をささえながら正当な評価をされることもなかった人々へのやさしいまなざしとともに、時代や社会へのするどい告発を忘れなかった中島みゆきの悲痛なまでの叫びを真正面から受け止めた島津亜矢は、この歌を中島みゆきのいい意味での「歌謡曲」から抜き出し、女優の一人芝居のように固有の劇的空間の中で、報われなかったすべてのたましいへの鎮魂歌として、テレビ画面のはるかに遠い暗闇から一気にわたしの心の奥の奥にまで届けてくれたのでした。
 島津亜矢はここ何年かの芝居の経験を積むことで、今までのモノローグの語り手としての稀有の歌手から、芝居のダイアローグを経験し、歌い切ることから歌を聴く者の心に届け残す天才歌手へと変貌しました。そして、美空ひばりの荒野につづき、ちあきなおみが歩みを止めてしまった「もうひとつの音楽の荒野」の先をも見据えるところまで来ました。

 長い歌歴を持つ中島みゆきですが、わたしはやはり初期のアルバム「生きていてもいいですか」(1980年)の頃が一番好きで、そのアルバムに収録された「エレーン」が、わたしにとっての中島みゆきの最高傑作と思っています。
 「エレーン、生きていてもいいですかと誰もが問いたい エレーン その答えを誰もが知っているから 誰もが問えない」と歌うこの歌は、同じアパートに住んでいた外国人娼婦がある朝、無惨に殺害され、全裸でゴミ捨て場に遺棄されたニュースが新聞のわずか数行の扱いで、捜査も結局迷宮入りになった実話をもとに歌っていて、行きどころのない悲しみと怒りを誰にぶつければいいのか、その怒りはわたしにも向けられるものではないのかと、聴きながらいつも泣けてしまう名曲です。
 1994年に発表された「ファイト」…。この歌は広島の尾道市で障害者解放運動の道半ばで死んでいった木之下孝利さんの愛唱歌で、彼の葬儀に行ったとき、この歌がエンドレスで流れていたことを思い出します。
「ファイト!闘う君の唄を 闘わない奴ら笑うだろう ファイト! 冷たい水の中を ふるえながらのぼってゆけ」…。木之下さん、あなたが広島の地から豊能障害者労働センターにいつもエールを送ってくれたことを忘れられません。
 島津亜矢が先人の歩みを止めた荒野の先を引き継ぎ突き進むように、わたしたちも勇気をしぼってあなたの切り開いた人間の荒野の先へと進んでいこうと思います。

 島津亜矢が次に出すことになる「SINGER3」には中島みゆきの「エレーン」と「ファイト!」が入り、コンサートでも歌ってくれるようになったらいいなと思います。

島津亜矢「地上の星」 
これは少し前の映像ですが、すでに今の歌唱とほぼ同じで、すでにこの頃から島津亜矢はこの歌のもっとも大切な場所までたどり着いていたようです。
作詞作曲:中島みゆき 歌:高橋優「ファイト!」
ほんとうは中島みゆきの映像があればいいのですが、カバーの映像しかなく、その中で吉田拓郎他いろいろな人が歌っていますが、高橋優がもっともシンプルに歌っているので、この映像にしました。高橋優は、わたしが島津亜矢とは別にJポップのジャンルでもっとも注目している人で、大ファンです。
作詞作曲:中島みゆき カバー「エレーン」
この曲はオリジナルの映像もなく、気に入ったカバー映像もないのですが、どんな曲か知らない方には歌詞もわかっていいかなと思い、使わせていただきました。
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