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2015.04.05 Sun 2015年黒川「桜の森」

2015年黒川桜の森

 わたしの住む能勢の里山では、春になると山のいたる所に山桜のぼんやりと薄曇るピンクが浮かびます。まだ朝は肌寒い風の中、通勤のためにバス停へと歩くとウグイスがクラシックのような正調の鳴き声からまるでジャズのようにアドリブを聴かせ始めるこの時期、里山の春を感じさせてくれます。
 一年のこの時期にだけ姿を現す遠景の山桜は優美で気品に満ちていて、どこかこの世のものとは思えぬ幽玄の趣が漂っています。それは羽衣伝説の隠された羽衣が姿を現し、それを見つけた天女が羽衣をまとい天に帰って行く、そんな数日間の芝居を観ているようです。
 わたしは長い間、桜を見ては「空のじんましん」と言い、桜は散る瞬間が一番きれいで、体じゅうのピンクの湿疹がうそのように消え、緊張感がほぐれていくとうそぶいていました。その桜はソメイヨシノで、公園や街路に植えられた桜がほとんどで、わたしは咲き誇る桜が暴力的にも思い、また一瞬で散りゆく潔さに嫉妬を感じていたのだと思います。
 とくに、20年前の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災の春にも瓦礫に立ちつくし、空の輝きを一身に浴びて咲く桜は被災者のみならず多くの人々の心を癒した一方で、一瞬のうちに命も暮らしも奪ってしまいながら自然の摂理を忠実に指し示すように咲き誇る桜に、残酷ささえ感じることもあります。
 ところが、里山に咲く山桜はソメイヨシノとちがい、短期間の開花時期に集中して花見をするのではなく、桜が里山の緑に舞い降り、溶け込んでいくのをゆっくりと見る事ができます。そして、桜が緑の中に消えた時には、いつのまにか山は新緑に包まれていくのでした。

 今年はずっと天気が良くないと予想される中、2日は最高の天気でしたので、妻の母がデイサービスに出かけている間、桜が大好きなお母さんには申し訳ないと思いつつ、隣町の里山・黒川の桜を見に出かけました。
 昨年の春は妻がかかったインフルエンザがお母さんにもうつってしまい、長い間入院していましたので、本人はもちろんのこと、わたしたちも花見どころではありませんでした。
 妻は3年ほど前から着物地を小さく切って貼り付け、里山の絵をつくっていて、この地域の国崎リサイクルセンターが主催するリサイクルアート展でグランプリ、準グランプリを受賞しました。お母さんの障害が進んできて、そばにずっとついていなければならない状態になってきて、妻としてもそばにいながら何かしなければ心の平常も保たれない所もあるのでしょう。もともと若い時に絵を描いていたことや、妻も豊能障害者労働センターのリサイクル部門で働いていた関係で、絵の具を使わずに、本来ならとっくに捨てられてしまう布切れを小さく切り、点描画のように描いていく手法はなかなか斬新なものです。
 2年前、「桜の森」に初めて行き、彼女はその時からその風景を作品にしたいと考えていて、取材を兼ねて2年ぶりに訪れたのでした。
 日本一の里山と言われる川西北部黒川地区に行くには、通常は能勢電の妙見口からバスに乗り、ケーブル前を通り過ぎ黒川バス停で降りるのですが、今回は家の近所のバス停からバスを乗り継ぎ、能勢町宿野から妙見口行のバスに乗り、黒川でおりました。このルートは大阪峠を越え、バスの車窓から能勢の田園風景を満喫できるすばらしいルートなんですが、残念ながら本数がきわめて少なく、この日は能勢電山下駅から宿野までのバスが10分遅れてしまい、タッチの差で乗れない所を運転手さんの好意でなんとか乗り込むことができました。そのバスに乗りそこなうともお母さんのデイサービスからの帰りの時間のこともあって、行くのをあきらめなければならないところでした。

 そこからいくつかの行き方がありますが、今回もまず黒川公民館に行きました。この公民館は旧黒川小学校の建物を保存・利用しているもので、とても風情のある建物です。館内は入ったことがないのですが、貸出・閲覧できる図書室や、いくつかの講座室の貸館もあります。
 トイレを貸してもらうだけで黒川公民館を去り、すぐに山道を歩くと、20分もすれば「桜の森」にたどり着きました。
 メインの「微笑みの桜」はまだ3分先ぐらいでしたが、その他の桜は見事な満開でした。2年前に来た時は前調べもなく、山桜が群生しているところと思って来てみると、ここが森林ボランテイア団体「菊炭友の会」が、兵庫県の「里山ふれあい森づくり事業」により維持管理されている所であることを知り、びっくりしました。
 桜の森にはわずか1kmほどの間にエドヒガン約50本、ヤマザクラがほぼその倍(未調査・推定で約100本)・カスミザクラ2本が一面に群生しているのですが、会は黒川の30人余の山林所有者の同意を得てエドヒガンを中心に調査を行い、2007年に正式に黒川・桜の森と名付け、樹林の整備に取り組まれているとのことでした。
 自然の声を聞き、自然と相談しながら山桜やエドヒガンを探し、巻きついているツルなどをとり、そこまでの道をつけ、保存していくという地道な活動は荒廃していた里山をよみがえらせ、今ではたくさんの人びとが訪れ、単に花見をするだけではなく、自然と人間との共働作業が結実された里山のありように触れることができます。
 思えば千年の昔から、日本人は自然とのかかわりを放置するのでもなく破壊してしまうのでもなく、対話しながら共存してきたのだということを、そして里山は人間と自然との対話の場であったことを、この会の活動を知って教えられたように思います
 久しぶりにふたりで里山を歩き、取材用の写真も撮りおえ、春の風と鳥たちのおしゃべりに心も体も「ごちそうさま」になりました。

2015年黒川桜の森

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