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2015.03.05 Thu 島津亜矢「独楽」

 島津亜矢の新曲「独楽」は演歌・歌謡曲部門で一時2週連続1位となるなど、久しぶりにヒットチャートをにぎわしています。もっとも次々と発売される新曲に押され、次第にランキングが下がって行くことは避けられず、ここからは時間をかけてじわじわとロングヒットとなることを祈らずにはいられません。
 前にも書きましたが、この歌には星野哲郎への強いリスペクトを感じずにはいられず、ヒットチャートよりも島津亜矢の歌手生活30周年という特別な年に、彼女はもっとも歌いたい歌を歌い、彼女のチームもまた彼女にもっとも歌ってもらいたい歌を世に送り出したのだと思います。
 星野哲郎の歌は1960年代から70年代にかけて、わたしの青い時を照らし、生きる勇気をくれた歌たちでした。その頃は今と違い、巷の路地を歩いているとどこからともなく歌が流れ、「やるぞみておれ 口には出さず」と畠山みどりが歌う星野哲郎の「出世街道」の最初のフレーズだけで、「いつかは、いつかは」と切ない夢を抱いていた私をなんの根拠もなく励ましてくれました。
 わたしが島津亜矢のファンになったきっかけはいくつかあるのですが、星野哲郎の最後の弟子であることも大きな理由の一つで、島津亜矢が北島三郎にあこがれ、大好きな彼が歌う歌をつくる星野哲郎のもとに14歳の時に押しかけ、弟子になったといういきさつを知りました。彼女がデビューした1980年代といえばすでに演歌や歌謡曲がどんどんJポップの激風に吹き飛ばされていく中にあって、星野哲郎もまた「最後のたたかい」を彼女と共にやり遂げようと決心したのだと思います。
 歌は時代の流れに乗りながら時代を変えていくとする阿久悠とちがい、星野哲郎にはそれほどの野心はなく、むしろ自分の歌を必要するひとは誰なのかをいつも考えていた作詞家で、それを知るためにいつも巷に出て、街の路地に迷い込む時代の空気を言葉にし、そこでうごめくひとびとの夢や希望や喜びや悲しみや絶望を歌謡曲に乗せてきたひとだと思います。
 それらの歌はちょうど1960年代から70年代の高度経済成長の高速列車に乗り損ねたひとたちや、列車が止まるひとときのプラットホームで体も心も休める待合室、夜の酒場、夕暮れの赤から瞬く間に真っ黒に変わる波止場で孤独な夢を膨らませるひとたちの琴線にふれるものでした。
 北島三郎の「○○の女」シリーズ、「兄弟仁義」、「なみだ船」、「風雪ながれ旅」とともに、畠山みどりの「出世街道」や水前寺清子の「三百六十五歩のマーチ」や「一本どっこの歌」など、星野哲郎が「怨歌ではなく援歌」と呼んだ歌にこそ、星野哲郎のたましいが込められていて、最後の弟子・島津亜矢には彼の王道ともいえる骨太の歌を提供してきました。
 時代はすでに高度経済成長を終え、バブルを経て低成長からゼロ成長へと進む中、予定調和の日常で暮らす若者にとってメールやLINEやSNSの見えない電脳空間が背丈にあった現実となりました。ほんとうは時代の空気を敏感に読めるはずの星野哲郎でしたから、10代の少女に演歌の中でもよりアナクロといっていい人生の応援歌を歌わせることがどれだけ困難な道かよくわかっていたはずです。
 案の定、島津亜矢の歩んできた道はほんとうに険しいものだったことでしょう。わたしは歌をヒットチャートでとらえる習慣はありませんが、歌手にとってみれば歌が流行ることは大きな喜びであることは当たり前のことなのでしょう。それにわたしの若いころはどこからともなく聴こえてくるヒット曲がありましたが、最近はドラマの主題歌になるなどヒットするためのシステムがあり、それに乗らずまた個人事務所で既成の枠組みにも入らないでメガヒットを放つことはとても難しいことでしょう。
 島津亜矢を知ってしまった人から見ればユーチューブに挙げられている数々の映像のどれを聴いても、これほどの歌唱力とチャーミングな歌手にメガヒットがないことが不思議でならないと思います。
 そこで、島津亜矢とそのチームが選んだ道は、都会の大きなコンサート会場に足を運べないひとびとの住む町で彼女の歌を待ち望むひとたちのために、全国津々浦々の会場をまわる歌の巡礼という道でした。それは芸能界の既存の大きなシステムが用意してくれるステージではなく、自らが歌う場所を切り開き、ステージをつくり出すことでもありました。
 その活動は30年と言う長い時間をたどり、今や大きなうねりとなっています。
我田引水で申し訳ないのですが、彼女の活動はわたしが長い間かかわってきた「恋する経済」、消費者と生産者が入れ替わったり助け合ったりする「もう一つの市場」をつくりだす活動でもあります。現に島津亜矢のファンの方々の思い入れは他の歌い手さんには見られないとても熱いもので、かつてビートルズのファンのことをもうひとりのビートルズとよんだのと同じ意味で、ファンもまた島津亜矢とそのチームの一員でもあるのです。
 ですから島津亜矢の場合、メガヒット曲が出ればその稀有の才能が突然多くのひとびとに開かれ、社会現象にすらなる可能性を持っています。
 しかしながら星野哲郎は時代の空気に逆行するように、あえてヒットチャートへのランクインをねらわず、「大器晩成」や「温故知新」など星野哲郎の人生観そのままに頑固ともいえる潔さで、島津亜矢に骨太の歌を提供し続けました。
 そして星野哲郎亡き今、島津亜矢は節目節目に星野哲郎の世界を原点にしながら、今まで以上にポップスや芝居にも挑戦し、新しい可能性を模索しています。
 今回の新曲「独楽」は30年と言う節目にあらためて星野哲郎の世界に立ち戻った歌で、その受け継がれた潔さがこの歌をとても魅力的にしています。シンプルな構成とメッセージがダイレクトに伝わり、そのことが彼女に迷いを生まれさせず、今まで以上に説得力のある人生の応援歌になっています。「軸をしっかり本気に据えりゃ 己に勝てると独楽がいう」。
 この歌がメガヒットになるかどうかはわかりませんが、彼女のいっしょうけんめいの30年をふりかえる記念すべき歌として、少なくともいままでとはちがうヒット曲のひとつになることはまちがいないでしょう。
 その上で、さらに思うことは、星野哲郎もまた「北島三郎がそうであったように、島津亜矢もぼつぼつ星野哲郎のくびきから解き放たれ、新しい島津亜矢へと飛び立ってほしい」と思っていたのではないでしょうか。その意味では「枝を張るのはまだ早い 今はしっかり根をのばせ」と戒めた「大器晩成」と同じく、「独楽は心棒 こころも心棒」と、まだまだ途上の歌手としての辛抱を持ち続ける律儀な彼女ですが、すでに島津亜矢という存在は本人が思う以上の大きな存在となっています。 彼女の人となりからして傲慢になることはありえないのですから、これからはもっと果敢に自分の可能性を追い求めてほしいと思います。
 先日の「歌謡コンサート」で歌った「I Will Always Love You」が、この番組の指揮者で紅白歌合戦の指揮者でもある三原綱木が大絶賛し、視聴者からも大きな反響が寄せられましたが、この歌と「独楽」との大きなギャップが島津亜矢の最大の魅力とはいえ、やはり初心者のファンには、島津亜矢の奥深くディープな魅力へといざなうために、もう少し中間のポップス歌謡のような歌を提供すべきなのかもしれません。
 それはこれだけの才能を持ち合わせることから来る島津亜矢チームのうれしい悩みとしてこれからの宿題としつつ、今は島津亜矢がほんとうにのびのびと歌う「独楽」の行方を見守りたいと思います。
 音楽番組としては地上波のNHK歌謡コンサートでの再演と、NHK「BS日本のうた」のスペシャルステージ、あるいは若いひとがよく観ているNHKBSの「Covers」で「I Will Always Love You」と後一曲ポップスを歌い、その後に「独楽」を熱唱すれば、かなりの反響を呼ぶのではないでしょうか。この番組への島津亜矢の出演は番組としてもとても面白いと思うのですが…。

島津亜矢「独楽」
2月3日のNHK「歌謡コンサート」の映像です。さすがに「I WILL ALWAYS LOVE YOU」では少し緊張気味でしたが、この歌を歌う彼女の表情はとても晴れやかで、水を得たという雰囲気です。
島津亜矢「I WILL ALWAYS LOVE YOU」
2月3日のNHK「歌謡コンサート」での熱唱です。地上波でこの歌を歌うのが初めてだったこともあり、大きな反響を呼びました。わたしも何人かの友人にこの番組のことを知らせたところ、「よかった」、「びっくりした」とメールをくれました。
何度かこの歌を聴いていますが、島津亜矢のここ一年二年の進化はすさまじく、2月3日のこの歌もより説得力のある歌になっていると思います。日本では演歌ファンは洋楽を嫌い、洋楽ファンはなにか歌を汚されたかのように彼女の歌を否定していますが、わたしはマイノリティといわれるひとたちの傷ついた心や涙から新しい音楽が生まれると信じていて、演歌や歌謡曲やポップスなどというジャンルにこだわっているかぎり、ほんとうに「日本的なもの」も生まれないし、ましてやヨーロッパの支配階級の五線譜にむりやり音を閉じ込めざるを得なかったアメリカのアフリカン(黒人)の音符と音符の間に込めたソウルなどに近づけるはずはないと思います。島津亜矢はすでにそんなジャンルからははるかに解き放たれた歌姫として、世界にいつでも羽ばたける日本を代表する歌手としてのスキルを持っているとわたしは信じています。
島津亜矢「心もよう」
わたしが最近楽しみにしているNHKBSの「Covers」にもし島津亜矢が出演するならば(これはわたしの妄想ですが)、「I WILL ALWAYS LOVE YOU」と同じように意外性から言えば井上陽水がいいかなと思います。
実際、島津亜矢の井上陽水のカバーは彼女のカバーの中でも異色で、それは井上陽水というひとが実はとても歌謡曲の心を持ったひとで、そのもっとも深い歌心を島津亜矢は実に丁寧に、生まれたばかりの歌を壊さないように歌っています。
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