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2014.11.06 Thu 島津亜矢「BS日本のうた8」

 島津亜矢のアルバム「BS日本のうた8」を買い、今ずっと聴いています。
 収録されているひとつひとつの歌についてはこれからのこととして、このアルバムはデビュー以来、また近くはここ数年の彼女のめざましい進化のひとつの到達点だと確信します。
 前回の島津亜矢の記事の中で、NHK歌謡コンサートでの「感謝状~母へのメッセージ~」について、違和感といってもいいぐらいの変化について書きました。
 「むしろ彼女は長い時を経て、演歌歌手でこれほど演歌の常識のテクニックをそぎ落としていいものかと思うぐらいナチュラルで透明感あふれる高音と、聴く者の心の壁と共振するような低音を獲得し、少し言葉が過ぎる表現でいえば「四畳半演歌」、「スマホの中の歌」、「音楽のための音楽」が蔓延する中で孤高にもはるか遠くの海の彼方でひとつの星、ひとつの空を見つめる「歌を必要とする心」に届く歌を歌い続けてきました。
 だからこそ、ポップスやジャズやブルースを歌っても、いわゆる「演歌歌手」の手慰みとは程遠い至高の音楽の泉にたどり着けたのだと思います。
 その彼女の新しい歌唱は、彼女のはるかなる旅にそろそろ音楽の女神がご褒美をくれたのではないかと思えるほど、複雑な感情を一音一言にたくみに乗せて、一人和音にきこえるほどの豊かで重層な歌唱力と、誤解を恐れずに言えば肉感的でエロチックな声とが絡み合い、ほんとうにぞくっとしました。」
 文章を書いていると、「ここまで書いてしまった」と思う勇足をしてしまう時もあり、この記事でも「言い過ぎでしょ」とご批判をいただくかも知れないと思っていましたが、このアルバムを聴いているとあながちわたしの思い込みではなく、むしろひとつの至高点ともいえるこのアルバムに到達するまでの島津亜矢の進化のプロセスについて、わたしの貧弱な音楽の知識と非力な筆力では語りきれないもどかしさを感じます。
 
 世間ではまたぞろ年末の「紅白歌合戦」の話題が出ています。島津亜矢の出場への期待と願い、そして彼女が出場を拒否されるのならば「紅白」もNHKもボイコットすると話される数多くのファンの方々にお叱りを受けることを承知で言えば、彼女の出場はきわめてむずかしいと思っています。何の根拠もないわたしの考えでは、村上春樹のノーベル賞受賞と島津亜矢の「紅白」出場は同時に実現されると思っていて、それはおそらく来年になると思っています。
 その時にはファンとして「悲願の出場」とかいうのではなく、村上春樹の態度と同じように、NHKの「たっての依頼」に彼女が応えるという感じでとらえたいと思います。いままでの長い歌手人生の中では、島津亜矢にとって紅白再出場がひそやかな願いであったこともあるとは思いますが、いわゆる「演歌枠」に土足で入るほどのぎらぎらした営業をこのチームがしてこなかったことも事実でしょう。それはまた島津亜矢にとって決して好ましいことではなく、彼女の肉声を待ち続けるひとびとに歌と熱い思いを届けるライブ活動を大切に、孤高の歌手人生を選んだ島津亜矢だからこそ今の極みにたどり着いたことを、彼女とともに誇りにしたいと思うのです。
 最近の「紅白」が若いひとたちに受け入れられるアイドルやJポップのジャンルに吸い寄せられていくことは世の趨勢ですし、またこのジャンルの音楽的な冒険から刺激的な音楽やアーティストが排出されていることもまた事実だと思います。
 島津亜矢の場合、例えば井上陽水と同じように、すでに「紅白出場」が彼女の才能や音楽的な冒険からははずれていて、重要な表現の場ではなくなってしまったのだと思います。
 わたし個人は、島津亜矢のファンの方に叱られそうですが以前から島津亜矢と強いて言えば森進一ぐらいしか演歌には関心がなく、むしろ演歌枠が無くなってしまう状況にあれば島津亜矢は新しい「和製ポップス」の旗手としてNHKだけでなく多方面からオファーが絶えないだろうと思います。

 ついつい時節柄、横道にそれてしまいました。本題に戻ります。
 わたしはたかだか2009年の秋からの亜矢ファンですが、「Singer」、「BS日本のうた6」、小椋佳の「歌路遥かに」、阿久悠の未発表の詩と演歌界の稀代の作曲によるアルバム「悠悠~阿久悠さんに褒められたくて」、「BS日本のうた7」、「Singer2」と、ほんとうにファン冥利に尽きる彼女の進化に立会うことができました。
 これらの音楽はどれも、とくにアルバム制作においては制作チームのひたむきな想いが結晶されていて、ポップス、ジャズ、R&B、シャンソンにまですそ野を広げながら本来の「演歌」に新しい風を吹き込む意欲作ばかりでした。
 わたしは小椋佳による楽曲が続いてくれたらと思いきや、続けさまにもっとも刺激的な阿久悠のアルバムにびっくりし、さらには「BS日本のうた」の島津亜矢の歌に新たな可能性を感じていたら、昨年の「Singer2」で打ちのめされたという感じでした。
 阿久悠のアルバムに収録された10曲は、もし仮に阿久悠が生きていて島津亜矢と出会っていたら、やり残した「新しい歌謡曲」への再出発を試みたかも知れない珠玉のアルバムで、世が世であればこれらを一曲ずつシングルカットして発表されていたら大反響を呼んだかもしれない名曲たちです。このチームは堅実でありながら、時々贅沢な冒険をするものだと思います。
 そして、今回のアルバムの果実の前兆となった「BS日本のうた7」では、とくに「函館山から」などに新しい低音の魅力が垣間見え、懐かしい歌謡曲の彼方に島津亜矢にしか歌えない「新しい島津演歌」の到来を予感させるものでした。
 そして「Singer2」…、この全曲ポップスのアルバムでは、最初聴いた時は感動よりも先に、この歌い手さんはここまで聴く者の想像をはるかに越えた場所に到達し、そこから聴く者においでおいでしている、とんでもない才能の持ち主だと打ちのめされました。
 この全曲ポップスのどれひとつをとっても、実は彼女が長い間追い求めていた「演歌」、「日本的な歌」のルーツを受け継ぐ「語りを越えた語り」、「楽譜にない音」、「歌詞にない言葉」が和音のように聴こえてくるように思いました。それはあえて言えば美空ひばりが死してなお歌姫として君臨している理由でもある、「何か」なのだと思います。
 そして、今回の「BS日本のうた8」は歌謡曲、演歌でありながら、「Singer2」のポップスの歌唱が全面的に融合しサポートし合っていて、いよいよ「新しい歌謡曲」、「島津演歌」の誕生が近いことを音楽の女神が告げているように思います。
 あとひとつ足りないのは、ひとえに歌の作り手にあると思います。島津亜矢はおそらく、その新しい作り手をここ数年の間に探さなければならないのです。あるいはすでに全ジャンルの歌の作り手と彼女が電撃的に出会う瞬間を、わたしたちは待ち続けなければならないのでしょう。
 寄り道にそれたこともあり、ここまでで文字数がこえてしまいました。この続きや個別の歌については、島津亜矢のシリーズで順番に書くことにします。

島津亜矢「山河」
わかい頃の最高の歌唱の一つです。しかしながら、今回のアルバムで歌いなおした彼女は、別人の印象うけます。
そのことについてはどこかで書きたいと思っているのですが、この歌ほど、わたしが言う「進化」の果てしない時と道のりを感じさせる歌はありません。

島津亜矢「命かれても」
かつて「BS日本のうた」がひとつの歌を二人の歌手で競演させるというとんでもない企画の中で、キム・ヨンジャと競演した2000年の時の映像です。ほんとうに失礼な企画だと思いますが、この時すでに大歌手といっていい存在になっていたキム・ヨンジャをもろともしない歌唱に、ファンならずとも反響を呼んだといいます。
しかしながら、今回のアルバムでははるか遠くに来てしまった島津亜矢が、歌の女神に取りつかれた天才歌手の歌の足跡を熟成したウィスキーの深い味わいとともに、じっくりと聴かせてくれます。
個人的には、この歌はわたしの切ない青春の一曲で、涙なくしては聞けない歌です。この歌についても記事を書く予定です。
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歳三 : URL

2014.11.06 Thu 18:49

tunehiko様

又々お邪魔します。

tunehiko様に言われて発注したCDが昨日
届いていて、即 聴きました。

第一印象は「アレッ」でした。

今まで聴いていた亜矢さんの歌とは
違う様に思いました。文才の無い私では
上手く表現出来ませんが、力みなく
さりげなく歌っているのでしょうか?

「嵐を呼ぶ男」可愛い声の裕さん。
びっくりしました。(初めて聴く)

「東京砂漠」前川清とは別の歌です。

「命かれても」やはりこれです。

各々の歌についての解説、楽しみに
しています。

tunehiko : URL

Edit  2014.11.06 Thu 21:48

歳三様

そうなんですよね。
わたしはここ数年の間の亜矢さんのめざましい進化についていくのが精いっぱいなんです。
彼女はまだ多くの方が持っておられる印象どおりに、「歌いきる」歌唱をすることもできるのですが、それをあえて封印し、「歌い詠み」、「歌い残す」歌唱に磨きをかけてきて、ごくごく最近、ようやくさらなる一歩踏み込んだように思います。
追随するものがいない天井知らずの熱唱から、丁寧に歌うことでメリハリをつけることを経て、再度マックスの高音から低音までを駆使しながら、こんなに柔らかく歌える歌手は、ほとんどいないでしょうね。
、若い時のような元気はつらつが懐かしく思われる方もおられるとは思いますが、今の彼女の歌の方が、わたしはより広くより多くの人の心に届くと思います。

池 勝男 : URL 天才

2014.11.13 Thu 19:54

つねひこ様今晩は。

昨日、モーツアルトの音楽についての番組見ていました。
見ていて、亜矢さんの事とダブりました。
モーツアルト、或る方に言われました。

あなたの音楽は最高です。だから、 世渡りの勉強をしなさいと・・・。
天才故の欠点(?)でしょう。
清く正しく生きる。 素晴らしい。

この世の慣習も有りなのでは・・・。
紅白出なくていいです。 
亜矢さんとは次元が違う。

そういうふうに考えてしまう。
演歌嫌いな私でも、亜矢さんのCDは買います。
私も真っ直ぐに生きてきました。

けれども、突っかかってしまう。
少しずるくなって・・・。
島津亜矢さんはやっぱし正々堂々正面突破で進んで欲しい。

並じゃない天才だから、凡人には理解されないのかも・・・。
最後にシンガー2素晴らしい!
亜矢さんの変わり者の、ファンです。 ごめんなさい。

tunehiko : URL お久しぶりです。

Edit  2014.11.14 Fri 20:41

池 勝男様
お久しぶりです。
池様はクラシックにも憧憬が深いので、亜矢さんの魅力をまたちがったところで感じておられますね。
わたしも来年はショパンあたりから聴いてみようと思います。
わたしは今は「BS日本のうた8」の「山河」から「命かれても」を何度も聞いて楽しんでいます。

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