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2014.04.24 Thu 島津亜矢「望郷酒場」、「かもめはかもめ」BS朝日

 BS朝日「日本の名曲 人生、歌がある」では、毎回、「TRIBUTE TIME」として、歌謡史に大きな足跡を残した歌手の特集をしています。
 布施明の特集で島津亜矢が「霧の摩周湖」を歌ったのがまだ記憶に新しいですが、今回の放送では千昌夫特集として、「夕焼雲」を布施明と伍代夏子、「望郷酒場」を島津亜矢、「あんた」を八代亜紀、「津軽平野」を吉幾三、「星影のワルツ」を五木ひろし、そして最後に「北国の春」を千昌夫本人が歌いました。
独特のトークでにぎわす千昌夫と、それに勝るとも劣らない吉幾三が深い関係であることなどから、爆笑の中で「津軽海峡」のエピソードなどが語られた他、番組全体が笑いにつつまれ、とてもなごやかな雰囲気でした。
 島津亜矢が「望郷酒場」を歌うと、伸びのある高音とやわらかな低音が響き渡るすばらしい歌唱力で、千昌夫が思わず「亜矢ちゃん、上手い!」と褒め、牛追い唄のところでは合いの手を入れるなど、ほんとうに満足そうでした。実際、テレビを通しても聴く者の心の果てにまで届く彼女の歌をすぐそばで聴き、大先輩としても彼女の歌の力を率直に感じたのだと思います。
 わたしが島津亜矢のファンになったきっかけのひとつが、ユーチューブで聴いた「夕焼け雲」でした。若いころの島津亜矢はほんとうに怖いもの知らずの声量と濁りのない声、プロとはいえどうしたらこんな歌唱力を得ることができるのか信じられない歌声で、どんな歌も歌いきっています。あれから15年ほどたった今、すでに完成されていた歌を捨てて最初からまた歌い直し、聴く者の心にそっと歌を置いていく最近の島津亜矢に心惹かれるわたしですが、それでも若いころの切れのある歌声を聴くと圧倒されます。
 冥府めぐりさながらにジャンルを問わずさまざまな歌と出会い、歌を語るだけでなく歌を読み、歌いきるのではなく歌の余白を残す島津亜矢は、今こそ新しい島津演歌を歌い始めたのだと思います。
若いころよりも奥行きのある豊かな声量と、他の歌手とは逆行するように年を重ねるほどにどんどん余分な「個性」や表面的なうなりやこぶしをそぎ落とした彼女の歌声は、いつまでも心地よい余韻を聴く者に残してくれるのです。
 その意味で、デビューから30年近くになる彼女がこれまでに歌ったオリジナル曲、とくに隠れた数々の演歌の名曲を今の島津亜矢がどう歌うのかと想像すると身震いしてしまうのです。かなうものならば究極のカバーソングとして、セルフカバーのアルバムがあってもいいのかも知れません。

 さて、スキャンダラスで豪快で、どこか憎めない話題が満載の千昌夫ですが、わたしはこの歌手に現代演歌の歌手がたどってきた道とはちがうものを感じています。
 数々の名曲を世に出した恩師・遠藤実が千昌夫に提供した歌には、どこか土の匂いがして独特の大衆性と叙情にあふれています。遠藤実は東京生まれですが、新潟に疎開した時にこの地に伝承される門付芸能に触れたことが、後に流しから作曲家になった人生に大きな影響を与えたと言われています。
 遠藤実は多くの歌手を育てていますが、東北出身の千昌夫に日本の叙情歌のもっとも純化した心を見つけたのだと思います。ふたりの出会いが生み出した珠玉の名曲「北国の春」が国民的歌謡になっただけではなく、海を渡りアジア各地でも歌われるのは、近代化の荒波にあらがって生きるひとびとの望郷の思いと失われていく家族の風景が、土の匂いと共に立ち上るからだと思います。
 日本の演歌・歌謡曲がさまざまなワールドミュージックとどこかでつながっているとすれば、「土の匂い」と「風の手紙」と「海へのあこがれ」が世界各地の市井のひとびとの心情を共振するからで、言葉や生活文化がちがっていても歌はあっさりと国境を越え、海を渡ってしまうのです。
 千昌夫の「夕焼雲」の作詞は横井弘で、三橋美智也の「哀愁列車」など、1950年代の歌謡曲の第一人者でしたが、60年代に入り千昌夫に託したものは、すでに「帰れなくなった故郷」への思いを胸に都会で生きる人々の心情でした。
 思えば千昌夫の歌はほんとうに望郷の歌が多く、高度経済成長のジェットコースターにしがみつかなければ振り落とされる時代の切なさにあふれています。その先をたどれば野口雨情、中山晋平にたどりつく叙情歌としての歌謡曲を歌い継ぐ歌手のひとりである千昌夫が歌う望郷の歌は、同時になくなりつつある日本の叙情への挽歌でもあります。
 島津亜矢は三橋美智也や春日八郎、田端義夫など、戦後すぐに活躍した彼らの歌を歌い継ぎ、日本の叙情をいまに残す数少ない歌手のひとりで、彼女が歌う「戦後の歌」に涙を流す人々がたくさんおられますが、千昌夫の「夕焼け雲」や「望郷酒場」もまたそんな島津亜矢にぴったりの歌で、彼女自身時別な思いをもって歌っているのではないいでしょうか。

 今回の放送で歌った最後の一曲は「かもめはかもめ」で、キム・ヨンジャとの共演でした。キム・ヨンジャもまた、その歌唱力と声量に定評があり、わたしはきらいではありません。彼女が慣れない日本語の歌詞と格闘しながら演歌を歌うことに、テレサ・テンと同じように少し気の毒に思ったこともありました。しかしながら、韓国人である彼女が日本の演歌を歌いつづける覚悟のようなもの、その気迫に圧倒されることも事実です。
 ずっと以前、大阪のイベントで「ワンコリアフェスティバル」にゲスト出演し、大阪の朝鮮学校の女学生たちによるマンドリー演奏で韓国の歌を歌うのを聴いたことがあり、その時は演歌への気負いから解き放され、とてもしなやかで美しい歌唱に感動しました。
 あれからかれこれ20年以上もすぎましたが、今もなお彼女の歌を聴いていると、良い意味で「たたかってるな」と感じます。
 そんな彼女が、島津亜矢と歌うとどうでしょう。どちらがどちらかわからないぐらいナチュラルで切なくてしなやかで心ふるえる歌声で、まるで少女のようでした。時々痛々しくなる「気負い」のかけらもなく、彼女本来の美しい声と奥の深い歌唱力で、正直わたしは少し目頭が熱くなりました。
 キム・ヨンジャもすばらしかったけれど、島津亜矢はほんとうにすてきなひとです。実際のところ、島津亜矢とコラボできる歌手はそんなにいないでしょうが、いざ共演してみると共演者のすばらしさを引き出す人柄とともに、あたかもバックミュージャンのように相手をメインボーカリストにしてしまう島津亜矢の音楽的なセンスとふところの深さに感服します。
 島津亜矢ひとりが歌えばという感想をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、他の歌い手さんとの共演は音楽番組の魅力のひとつで、わたしは久しぶりにキム・ヨンジャの自然な歌声を聴けたこともふくめて、島津亜矢の魅力をまたひとつ発見できてとてもよかったと思います。
 その意味では、伝え聞くところによると、今度「BS日本のうた」で島津亜矢が天童よしみと共演するとのことで、わたしは実は天童よしみにもちょっとした思い入れがあり、放送がとても楽しみです。

島津亜矢「望郷酒場」

島津亜矢「夕焼け雲」

千昌夫「望郷酒場」

千昌夫「夕焼け雲」
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フィレオ― : URL ファン

Edit  2014.04.26 Sat 18:35

今日は。

本当のファンは、つねひこ様やラックスマン様の様に後方支援される方です。 単純な私。 先日の昭島コンサート、町田コンサートで、握手
させて頂きました。  キムヨンジャさんと亜矢姫様のコラボ観ていました。ファン心理からすると、亜矢ちゃん姫、もっと前に出て欲しいと思い
ましたが、仰有る様にそこが、亜矢ちゃん姫の心使いだったのですね。
興味がおありでしたら、ギター練習されると良いですよ。
CD買うと、メロ譜とコード付いていますから・・・。是非。

tunehiko : URL うらやましいです。

Edit  2014.04.26 Sat 19:41

フィレオー様

たびたびのコメントありがとうございます。
2回とも握手されたんですか。うらやましいです。
わたしは一昨年になるでしょうか。神戸こくさいホールで目の前寸前まて亜矢さんが来たのですが、残念ながら握手できませんでした。
ところで、新歌舞伎座のチケットをぴあで買おうとしたのですが、千秋楽ということもあってか、先行抽選にもはずれ、発売開始後一日で2階席が亡くなっていて、今日新歌舞伎座の直接販売でなんとか手に入れました。
ぴあでとれなかったのは初めてで、少しと焦りましたが、うれしくもありました。

履歴書バイブル : URL

2014.07.04 Fri 11:45

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!

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