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2014.03.23 Sun 映画「あなたを抱きしめる日まで」

あなたを抱きしめる日まで2

 先日、映画「あなたを抱きしめる日まで」を観に行きました。2月にテオ・アンゲロプロス監督の「エレニの帰郷」を観てから、今年2本目の映画となりました。
 ここ最近、少し精神的にきついことが続いていたのがやっと落ち着き、ひさしぶりに映画を観ようと思い、上映中の映画を調べました。
そこで、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の「家族の灯り」とこの映画のどちらかにするか迷いました。普段のわたしなら、演劇が原作の心理劇のような密室劇のような「家族の灯り」の方を選んだことでしょう。
けれども今回は老俳優が演じる老人の映画が好きなこともあって、「あなたを抱きしめる日まで」を観ることにしました。
 
 映画「あなたを抱きしめる日まで」は、「クィーン」などで知られるスティーヴン・フリアーズ監督が、10代で未婚の母となり幼い息子と強制的に引き離された女性の実話を、名女優ジュディ・デンチを主演に迎えて映画化した2013年の作品です。50年前に強制的に引き離された息子との再会を願うフィロミナと、彼女の息子捜しを手伝うジャーナリストのマーティンの旅は、アイルランドのカトリック修道院を舞台にした強制労働、人身売買など、女性への人権抑圧の暗い歴史をあぶりだす旅でもありました。

 イギリス。善良で信仰心が篤い田舎の主婦フィロミナ(ジュディ・デンチ)は、娘のジェーン(アンナ・マックスウェル・マーティン)とともに穏やかな生活を送っていました。
 ある日、50年間隠し続けてきた秘密をジェーンに打ち明けます。1952年、アイルランド。10代で未婚のまま妊娠したフィロミナは家を追い出され、強制的に修道院に入れられます。そこでは同じ境遇の少女たちが、奉公人のように働かされていました。フィロミナは男の子を出産、アンソニーと名付けますが、面会は1日1時間しか許されず、やがて修道院は3歳になったアンソニーを金銭と引き換えにアメリカに養子に出し、フィロミナは「息子の行方を捜さない。誰にも息子のことを話さない」という誓約書に署名させられるのでした。
 それから50年。フィロミナはアンソニーのことをいつも思いつづけていました。アンソニーの50歳の誕生日に、母から事実を知らされたジェーンは、母のために、あるパーティで知り合ったマーティン(スティーヴ・クーガン)に話を持ちかけました。
 マーティンはBBCで政府の広報担当のジャーナリストをしていましたが、トラブルが原因でBBCを解雇され、ロシア史の本を出版しようとしていました。初めて話を聞いた時は、「三面記事で取り上げられる内容だから」と、あまり興味がない様子でしたが、数日後にフィロミナやジェーンと面会し、詳しく話を聞いていくうちに興味を持つようになります。
 愛する息子にひと目会いたいと願うフィロミナと、ジャーナリストとしての再起をかけたマーティンは、アンソニーがいるアメリカへと向かいます。そこで2人は思いもよらぬ事実を知ることになります……。
物語を追うのはここまでとしますが、1時間40分ほどのそんなに長くないこの映画を観終えて、アイルランドにおけるカトリックの女性への理不尽な抑圧と迫害が、イギリスの長い圧政の元で地場産業を壊され、イギリスの地主たちに支配された土地をたがやす小作人としてしか生きられなかった、ヨーロッパで最も貧しい民族とよばれたアイルランド社会の暗く悲しい歴史を抜きにしては語れないと思いました。
 アイルランドを舞台にした映画と言えば、昨年観た「アルバート氏の人生」が生々しくよみがえります。あの映画は19世紀の大飢饉と疫病で数十万人が死亡し、アメリカ大陸への移住も合わせて人口が半分になって行く時代の女性差別が底流にある女性の悲しい物語でした。
 時代が移っても負の歴史は脈々と受け継がれ、アイルランドでは結婚前に妊娠はもちろんのこと、ちょっと綺麗で男心を誘うというだけで修道院に入れられ、囚人同然の扱いで洗濯をはじめとする強制労働をやらされただけでなく、生まれた子どもを人身売買同然にアメリカ人との養子縁組を強行していた事実が告発されています。最近ではこの「事業」に国が関与していたということが発覚し、賠償問題にまで発展しているようです。
 この映画の主人公フィロミナも3万人ともいわれるその犠牲者のひとりで、ひとびとが宗教による救済を求めるしか生きられなかったこととひきかえに、女性への差別と抑圧をゆるしてしまう負の連鎖が告発されています。
 そしてそれは宗教による女性差別だけの問題ではなく、社会や国家の権力システムが生み出す差別と人権抑圧に共通したもので、もちろんわたしたち日本の社会にもかつてあり、また今でもあるものだとわたしは思います。

 そんな暗くて重い背景から敬遠されそうなところ、この映画ではテレビとロマンス小説好きの可愛らしいおばあちゃんのフィロミナと、名門大学を出た元ジャーナリストのマーティンという奇妙なコンビのかみ合わない会話から不思議な友情が生まれ、いい意味でのロードムービーの軽妙さが、かえって暗く重い真実に2人が迫る勇気を与えているようです。
 フィロミナ役のジュディ・デンチは、教会にひどい仕打ちを受けてもなお強い信仰心を持ち、純朴でユーモアに富むチャーミングな女性を見事に演じていて、ほんとうに感動的でした。マーティン役のスティーヴ・クーガンの演技には、最初はそんなに乗り気ではなかったもののフィロミナとの間に友情が芽生え、息子のアンソニーを探す情熱と修道院や教会の理不尽に憤る正義感がにじみ出ていました。わたしたち観客は彼を通してフィロミナの苦難を知り、その苦難をもたらした張本人で、今でもフィロミナをさげすむ修道女に「わたしはあなたを赦します」という彼女の言葉に深い愛と、やさしい知性を感じました。
 映画はしばしば、映像や物語や登場人物の言葉によって、わたしの知らなかった世界のさまざまな地域の風土や、時には悲惨で暴力的な歴史の暗部を教えてくれました。映画によって学んだことは、いつまでも心の銀幕に残っていて忘れることができません。
 この映画もまた、とても大切なものをわたしに届けてくれました。

映画『あなたを抱きしめる日まで』公式サイト

過去の記事 2013.01.29 Tue「アルバート氏の人生」という映画を観ました。

映画「あなたを抱きしめる日まで」 

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