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2014.03.01 Sat 山田太一「時は立ち止まらない」

 スポーツで勝って、コンサートをひらいて元気を「与える」という人が多くてムカつきます。どうして上から目線なのでしょうか。与えられたくなんかないよ。自分で輝くよといってやってください。 (山田太一)

 わたしはいま、自然災害による被災障害者を支援するとともに、防災・減災活動をすすめる「ゆめ風基金」の手伝いをさせてもらっているのですが、上記の言葉は2011年の東日本大震災直後に「ゆめ風基金」の活動を支えてくださる呼びかけ人の方々にメッセージをお願いしたところ、山田太一さんからいただいたメッセージです。
 震災直後から全国のボランティアの人々が広大な被災地で救援活動をすすめるのと軌を一にして、芸能人によるボランティア活動も盛んに行われました。
あの頃連日連夜繰り広げられた避難所などでの歌い手さんなど芸能人のボランティア活動は純粋な気持ちから来ているのはわかっていても、どこか画一的な被災者像を押し付けられているような感じを持ってしまいました。
 かけがえのない家族や友人をなくし、生き残った被災者の方々の悲しみはその大きさも深さもひとりひとりちがうでしょうし、被災地の中でも単純なものではないはずで、ましてや被災地以外の地に住む者が簡単にわかるはずもありません。 
 震災直後に届いた山田太一さんの言葉は痛烈で、もし若い芸能人のブログなら炎上しかねない発言であり、とても勇気のいる発言だと思いました。
 さすが山田太一と、若い時から大ファンのわたしはおおいに共感したものですが、そういう人も結構いるみたいで、「ゆめ風基金」の呼びかけ人のメッセージの中でも特に賛同が多かったことを覚えています。
 「絆」という言葉がもてはやされ、被災者から反対に勇気と元気をもらったとか、いろいろなエピソードをテレビや新聞から垂れ流され、歌やドラマや小説やドラマなど、ドキュメンタリーからエンターテイメント、フィクションまで震災をテーマにした感動的な物語が大量に押し寄せたこの3年ですが、復興というひとつの言葉では解決しようもないさまざまな問題が被災地の人々にますます重く積み上げられていることは、今年の1月で避難者数が27万人、県外への避難者が福島県で約5万人、宮城県で約7000人、岩手県で約1500人であることが証明していると思います。
 「感動的な物語」だけでは語れない被災されたひとりひとりの肉声や悲鳴、憤りは全国で一生懸命活動されている市民たちの集まりなどで聞くしかなかったことも事実です。
 「ゆめ風基金」もそれらの活動のひとつで、被災障害者ひとりひとりの肉声をさまざまな場で聞くための集まりを開いたり、情報発信し、必要な人に届く支援を続けてきました。

 震災直後に痛烈なメッセージをくださった山田太一さんがこの震災をテーマにどんなドラマをつくるのかと、わたしは心待ちにしていました。
 そして震災から3年、2月22日にテレビ朝日で放映された山田太一作「時は立ち止まらない」は、わたしが想像していた以上の物語でした。
 ドラマは震災の5日前、2011年3月6日、高台に住む地元の信用金庫で支店長を務める西郷良介(中井貴一)とその妻・西郷麻子(樋口可南子)の会話から始まります。
 「お父さん、向こう行ってすぐ愛想よくばっかりしねえでよ」、「愛想よくして何が悪い、今や娘が嫁に行くかもしれねえ家だ」。その日は、一人娘の千晶(黒木メイサ)と海沿いの町で漁師をしている浜口克己(柳葉敏郎)の長男の浜口修一(渡辺大)との結婚を認め、良介の母・奈美(吉行和子)も加えた家族全員が浜口家を訪ね、顔合わせをする日だったのです。
 浜口家では西郷家の家族を迎え入れるために、克己が朝早くに釣り上げたマスを父親の吉也(橋爪功)がさばき、しっかり者の妻・正代(岸本加世子)が手早く料理をつくっていました。克己の母のいく(倍賞美津子)は千晶が市役所に勤めながら将来は政治家になりたいという夢を実現したいと修一に伝えていることなどから、漁師の妻には向かないと、この結婚には反対していました。ともかくも修一の弟・光彦(神木隆一郎)を加えた浜口家の家族6人と西郷家の家族4人は大きな座卓を囲み、ぎくしゃくしながらも親戚となるはずでした。
 それから5日後の3月11日、あの大震災と津波によって、浜口家は新郎になるはずだった修一と母の正代、祖母のいくが命を落とし、家も漁船も失ってしまいます。
 一方、高台に住んでいた西郷家は被害を免れます。東日本大震災がなければ結婚を機に結びつくはずだった2つの家族が、地震と津波によってあまりにもかけはなれた立場になってしまい、どちらのせいでもなく気持ちがすれ違い、対立してしまいます。
 良介をはじめ西郷家の家族は、自分たちは被害を受けなかった後ろめたさも感じながら、浜口家の残された家族をなんとか助けたいと、避難所に物資を届けます。
 浜口家の祖父、吉也は援助を拒絶します。「こっちはなんにもない。ありがとうというしかない。網もロープも船も、女房に嫁に孫までいない。それ、俺のせいか、息子のせいか」。
 「自分が悪いわけではないのに、他の人に助けてもらうことへの無念さや屈辱。報道やドキュメンタリー番組だとそういうことは言えないが、人間だからそうした感情はあるはずです」と、山田太一さんは語っています。
 追い詰められた良介は、「津波に遭ったと聞けば、誰にでも優しぐしなぎゃなんないのか」と、妻の麻子に漏らしてしまいます。ドラマは良介をはじめ西郷家の人々を通して、同じ被災地に居ながら運よく被害を免れたひとびとの心にも、後ろめたさだけではない大災害の爪痕が広く深く残って行くことを丁寧に描いています。
 震災によりいったん崩壊してしまうのですが、本音でぶつかりあうことから震災前よりも強くつながっていく2つの家族の2年半の物語は、押し付けられた「感動」ではない、もっとごつごつした手触りのある感動をわたしの心に届けてくれました。
 これこそが山田太一さんのドラマだと、ほんとうにうれしい涙を流しました。

山田太一「時は立ち止まらない」1

山田太一「時は立ち止まらない」2

テレビ朝日開局55周年記念 山田太一ドラマスペシャル「時は立ち止まらない」公式ホームページ

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