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2014.02.02 Sun 島津亜矢と北島三郎と木8と

 1月30日の「木曜8時のコンサート」を観ました。島津亜矢が出演するとのことで、先日に「NHK歌謡コンサート」を見逃したこともあり、今回は録画もしながら放送を観ました。
 島津亜矢は「大利根無情」を歌いました。このひとはつい最近でもまた歌に変化を感じさせる歌手ですが、新曲「かあちゃん」でまたひとつギアが入ったように感じます。
 「かあちゃん」については歌の内容が通夜の場面であることなどから、ファンの方々の間で賛否両論の議論がありますが、わたしはそのことについては両論もっともだとした上で、どちらにしてもまた一歩、島津亜矢が未踏の歌の荒野に踏み込んだと思っています。
 その前に発表されたアルバム「SINGER2」で日本の70年代から80年代のポップスの源流をたどり、見事に渡り終えた後に「かあちゃん」を歌い続ける島津亜矢には、年末の紅白歌合戦の騒動からははるか遠く、振り向けばだれひとり共に歩む人がいなかったとしても、歌の女神が誘う孤高の荒野にたったひとりで一歩を踏み出す静かな決意のようなものを感じます。
 実のところ「SINGER2」の流れからの新曲もあってもいいと思っていたわたしは、「かあちゃん」というベタなタイトルで、しかも人々が一年の区切りに夢や希望を育てる時にこの歌を発表するこのチームには音楽的にも営業的にも余程センスがないのかとも思いました。
しかしながらこの歌を聴き込み、この歌を歌い込む島津亜矢の姿を見ていると、このチームが目先のヒットチャートだけにとらわれず、島津亜矢がどんな歌手になろうとしているのか、彼女にふさわしい歌とはどんな歌なのか、そしてなによりも彼女が歌いたい歌はどんな歌なのかを一番大切にするチームであることを、あらためて知ったような気がします。おそらく「かあちゃん」は島津亜矢自身が持ち込んだか、少なくとも彼女がとても強い思い入れを持って歌っていることが伝わってくるのです。
 わたしもまた島津亜矢にヒットチャートを駆け上がるような歌が用意されたらと願い続けていますが、わたしの場合それはこの宝物のような歌手の存在をより多くの方に知ってもらい、人々の唇から唇へ、心から心へとリレーされ、島津亜矢の歌に救われるはずの人々の心に届けられることを願うからです。ほんとうに歌を必要とする心に届く歌はとびきりの歌唱力と天賦の声だけではなく、その歌にあるいとおしい物語を読み、育てることができるひたむきな愛を必要とし、島津亜矢はそのすべてを持つ稀有のひとであることを信じてやみません。それゆえに16歳のデビュー以来、何十年もたくさんのひとびとを魅了してきただけでなく、ファンの人々もまた島津亜矢チームの一員のように彼女の音楽活動を見守り、共に歩んで来られたのだと思います。
 その上で、もう少し正直なことを言えば、「かあちゃん」もまた、彼女がたどりついた歌とは言い難く、途上の歌だと思っています。いつか島津亜矢が歌を必要とする心、愛を必要とする心に届くほんとうの歌、約束の歌と出会う日が来るのを願っています。そして、案外その日は近いのではないかと思います。
「かあちゃん」は「帰らんちゃよか」、「旅の終わりに聞く歌は」とともにそのヒントをくれた大切な歌として、いつか振り返る時が来るかも知れません。

 多くのひとに怒られることを承知でもうひとつ告白しようと思うのですが、わたしは正直なところ「木8」という番組が苦手です。オープニングに美空ひばりの声を使用したり、あまり意味のない舞台美術とバックダンス、饒舌すぎるナレーションとテロップ、客席前列に歌手が座る演出など、これらはすべて会場にいるお客さんへのサービスから一生懸命演出されていることはわかるのですが、どこかいまあるままの「演歌」への無意識な依存が大前提にあり、おそらくそこから演出されているため、いろいろな歌い手さんの歌がみんなカラオケのように聴こえてしまうのです。
 ちょっと言い過ぎてしまったのはお詫びするとして、その上でも島津亜矢の「大利根無情」はすばらしい歌唱でした。以前に何度か書いたと思いますが、島津亜矢のいわゆる男歌には、「瞼の母」のように運命に翻弄され、堕ちていく男の切なくも哀しい運命を歌う歌がたくさんあり、わたしはこれらの歌が大好きです。「大利根無情」の平手造酒もまたそのひとりで、滅びの美学を歌える歌手は島津亜矢以外にはいないのではないでしょうか。
 この時の放送では、新沼謙治の「ヘッドライト」が心にひびきました。わたしはこの歌を石川さゆりのカバーで聴いたのが最初でしたが、彼女の恩師のひとりでもあった阿久悠の傑作のひとつであるこの歌は、日本が東京中心の高度経済成長のジェットコースターを駆け上がる途上にあってすでに、そこからこぼれ落ちるひとびとの人生と地方の荒廃を綴っていて、2020年の東京オリンピックのありかたを考える上で貴重な証言でもあるとわたしは思います。
 また、この放送では北島三郎の歌を女性歌手が歌う企画コーナーがありましたが、ここに島津亜矢が入らなかったのはとても残念でした。もっとも、彼女が先輩歌手に遠慮しながらでも北島三郎の歌を一節でも歌えばとても異質で、その場を壊してしまったかも知れません。それでも天童よしみ、石川さゆりは見事で、他の歌手も歌そのものはとても上手いのですが、どの歌も北島三郎自身がそうであるように、功なり名を遂げた比較的後期の歌唱に近いと思います。
 それに比べて、島津亜矢の場合は北島三郎の若い時の歌唱を思い出します。北島三郎のデビュー当時、張りのある透明で硬質の声と不敵さと色気は国もジャンルも時代もちがうエルビス・プレスリーを彷彿させるものがありました。いまでも映像が残っていますが紅白での「ギター仁義」をはじめ、「兄弟仁義」、「なみだ船」などを聴くと、今の「演歌」にはない音楽的冒険とエンターテインメントに満ち溢れています。
 いま、北島三郎の「あの声」を受け継いでいるのが島津亜矢だと思います。
 北島三郎にあこがれて歌手になった島津亜矢が北島三郎の歌を歌うと、彼女自身が切り開いてきた音楽的冒険の出発の場所、故郷に帰ったような気持ちなのでしょうか、羽目をはずし、思いっきり張りのある声で朗々と歌い上げます。
 かつてエルビスが、北島三郎がそうであったように、「不敵な色気」を漂わせながら…。

島津亜矢「大利根無情」(2001年)
2011年の島津亜矢は言うことなしの声量と圧倒的な歌唱力です。すでに20代後半で頂点に達してしまった天才歌手がその後もひたむきな努力を重ねてきた結果が今の島津亜矢をつくったのでしょう。
島津亜矢「大利根無情」(2011年)
10年の間の島津亜矢の進化がよくわかります。若い時ほど声を張らないのに声量は変わらず、しかも歌に奥行きと広がりがあります。小さな声、大きな声、高い声、低い声が歌の物語を深め、セクシーで肉厚の声は聴く者の心に溶けていくようです。結局島津亜矢を越えるのは島津亜矢でしかないということでしょうか。
島津亜矢「兄弟仁義」
これは2009年の「島津亜矢の男歌・女歌」に収録されているのですが、わたしは2012年の「日本のうた・7」に収録されている方が好きです。「日本のうた・7」ではこの歌に限らず、カバー曲のほとんどを歌いなおしていて、当初の歌唱との違いがわかります。最初の収録の時は少し遠慮がちに歌っているのですが、「日本のうた・7」では「後はたのむと駆け出す路地に」というところが巻き舌で、島津亜矢の北島三郎へのシンパシーがより強く表現されていると思います。
北島三郎「兄弟仁義」
不敵でセクシーな声はまさしく「神の声」です。

過去の記事2012.01.18 Wed 島津亜矢「BSにっぽんの歌」
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S.N : URL “大利根無情”よかったです!

2014.02.03 Mon 22:13

tunehiko 様

毎回、 亜矢さんの記事を楽しみに読ませていただいております。ありがとうございます。木8で歌われた“大利根無情”、よかったですね。出だしの(2番からでしたが)♫ 義理の~義理の~ ♫ の繰り返しのところで2回目の義理の~を鼻濁音で歌われたのが、印象に残りました。あきらかに(2001年)の時と違いました。そして、セリフも軽やかになっているように思いました。どちらも素晴らしい歌唱ですが最近の歌い方は、名人芸を見るようです。軽く歌っているようですが、より聴きやすくて胸にグッときます。あっという間に終わって、聴き終わったあとで何度でも聴きたくなります。おっしゃるように「またひとつギアが入ったよう」ですね。これからも、亜矢さんの記事をよろしくお願いします。

tunehiko : URL いつもありがとうございます。

Edit  2014.02.04 Tue 22:31

S.N様
いつもはげましのコメントを寄せていただき、ありがとうございます。
そうですね。この歌に限らず、最近ますます歌に色気がでてきましたよね。
このブログのタイトルはそんな意味でつけたのではないのですが、島津亜矢の歌に恋している自分に恥ずかしい気持ちと誇らしい気持ちが混じっています。

フィレオ― : URL 「島津亜矢」

Edit  2014.02.06 Thu 13:16

今日は

私もとうとう後援会に入ってしまいました。
沢山の名歌手が居られましたが、近寄りがたい感が有りました。

亜矢ちゃん(敢えて言わせて頂きます)は親近感を覚えるスターです。
声良しうた良し姿良し・・・。

書かれている、亜矢ちゃんチーム。
仰有る様にヒットすれば良いと思っているでしょうが、亜矢ちゃんの

歌の表現力や勉強熱心さや、力を最大限出そうとしているように
思います。

まぐれ当たりもあるけれど・・・。
そうでなく、ずーと上を見ているし、その力量を信じている。

歌は好みに左右されます。
本物が解らないこともあります。

仰有るように「かあちゃん」切ない曲ですが、亜矢ちゃんの声が
艶があって、明るい声なので、さらっとして、女々しくは聞こえません。

今年は座長公演も有ります。
明治座楽しみです。

tunehiko様ほんの駆け出しですが、亜矢ちゃん応援宜しく
お願いいたします。

tunehiko : URL わたしもまだ4年です。

Edit  2014.02.06 Thu 22:11

フィレオー様
いつもありがとうございます。
亜矢さんへの熱い思いにファン歴の違いはありません。
わたしもまだ4年しかたちません。
ただ、亜矢さんの昔からのファンの方々は新しいファンの方をとてもあたたかく迎え入れてくださるので、とてもうれしいです。

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