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2013.10.17 Thu 島津亜矢「お吉」・歌謡コンサート

 10月15日のNHK「歌謡コンサート」は、島津亜矢スペシャルステージと言っていい番組でした。
 「心ふるえる一途な恋」という企画の最後に、島津亜矢は名作歌謡の「お吉」を、それも5分以上もあるこの歌を、最近ではめっきり少なくなったフルバージョンで歌いました。
 それだけではなく、歌の前には高山アナウンサーが客席から唐人お吉の物語を詳しく説明した他、島津亜矢が歌い出すと舞台背景を特別に用意するという力の入れようでした。
 島津亜矢ファンのわたしとしてはただただ感激のステージで、放送が終わってからの各掲示板にはたくさんのメッセージが次々と寄せられています。
 わたしも遅ればせながらこの記事を書いているのですが、今回の番組にはプロデューサーやディレクターをはじめ、番組関係者のはっきりとしたメッセージが込められていたように感じました。
 最近、BS放送で五木ひろしがほぼプロデュースしていると思われる番組や徳光和夫の番組など、演歌・歌謡曲のジャンルで意欲的な番組がはじまり、この番組の存在感がやや薄くなった感じがしていました。もちろん、以前から毎回の放送での特集テーマを組んでいますが、毎年の古賀政男や美空ひばりの特集なども、無難な演出に終わっているように感じていました。
 そんな状況を考えてのことなのかどうかはわかりませんが、時間的なことでも43分ほどの番組の中で5分以上もかけて島津亜矢に「お吉」を歌ってもらおうと企画され、これだけの舞台を用意した制作スタッフの方々に敬意を表します。
 島津亜矢がその心意気をひそやかに受け止め、すばらしい舞台を作り上げたことはもちろんのことで、歌番組の一シーンというにはかなり異色なステージとなりました。
 実際のところ、この歌の物語は、「心ふるえる一途な恋」というにはあまりにも悲しすぎる物語で、フルバージョンで歌っても充分には伝えきれない物語だと思います。「この世の仕組みに毒がある」という歌詞にもあるように、時代に翻弄され、理不尽な仕打ちを受ける女性の悲しい物語で、今の時代にもまだ残る女性差別への憤りが奥の奥に隠れています。島津亜矢の「お吉」には、社会的な問題を抱えて生きる一人の女のせつない心情と悲しい人生が刃のようにわたしの心に突き刺さり、とても心が痛くなるのです。
 宮澤賢治の「よだかの星」のよだかは、容姿が醜く不格好なゆえに鳥の仲間から嫌われる一方、自分が生きるためにたくさんの虫の命を奪っていることに絶望し、太陽に向かって空を上り、体を燃やして星へと転生します。
 わたしは「一途な恋」というよりは、時の国家がお吉を、女性を、個人を理不尽に社会の都合で道具にし、使い捨てることへの憤りと、一方で自分もまた時代に翻弄され、酒を浴び、刹那的に生きるしかなかったお吉の無念を思い、お吉はお吉のやり方で「よだかの星」になったのだと思っています。
 島津亜矢は、一言では語れないそんなお吉の心模様を見守るように歌い、こんなセリフを言うのでした。
「ああ、こんな哀しい筋書きを、だれが書いたんだい。夢さ、夢に決まってるよ」。

 わたしが長い間演歌から遠ざかっていたのは、「男にすがり、耐え忍ぶ女」を小粋な美人の歌手が歌うという世界がなじめなかったからでした。島津亜矢はそんなわたしの先入観を見事に打ち破ってくれました。彼女が歌う股旅演歌からはアウトローの側から時代を見つめるまっすぐな心を感じ、家族を歌う演歌からは母と兄とわたしが必死に生きてきた家族のうしろすがたを思い出します。
 ロックやジャズやポップスしか聴かなかったわたしに、島津亜矢の演歌は子どもの頃の路地裏と壊れた土壁、真っ黒い土と途切れた鉄条網、長屋の前に並んだ七輪とイワシのけむり、貧乏だけどとても自由だった子どもの頃の風景を思い出させてくれたのでした。
 それでも、わたしは実は長い間名作歌謡劇場が苦手でした。ここ2年は座長公演で本格的な芝居をするようになりましたが、それまではリサイタルとロングバージョンのコンサートに必ず組み込まれていた名作歌謡劇場では、「お吉」をはじめ、「お梶」、「梅川」、「お七」、「お蔦」など歌と踊りとセリフによる芝居仕立てで熱唱、熱演する島津亜矢を観るのがつらくて、まともに見ることができませんでした。
 登場する女の悲しい物語はどれも彼女たちに理由があるのではなく、男や男社会や、さらには時の国家の暴力が彼女たちを傷つけ、それにあらがう力があるはずもない女の理不尽な運命を受け入れるだけでいいのか、いいはずがないと思いました。
 そんなわたしでしたが、2011年からのリサイタルと座長公演に立会い、そして過去のリサイタルのDVDを何度も観ている間に、ようやく名作歌謡劇場の底流に流れている熱き心情が感じられるようになりました。
 理不尽な運命を受け入れことでしか生きられなかった女の人生を歌う島津亜矢の名作歌謡劇場は、虐げられ、それでもひとを愛し、せつない夢を抱いて生きてきた女性たちの姿を通して、いつの時代においても大衆の怒りや悲しみや願いや無垢な愛によって歌が生まれ、歌い継がれてきたことを教えてくれたのでした。、

 今回の番組で、制作スタッフがどんな思いで破格の時間と異色のステージを用意したのかを知る由もありませんが、彼らが島津亜矢にひそやかな思いを寄せていたことはまちがいないと思います。
 ゆるやかではありますが、時代は変わっていくのだと思います。予定調和の歌ではなく、聴く人の心をえぐり、ゆさぶり、そして希望をたがやす、そんな歌を歌う島津亜矢に、時代の方が追いつき、すりよってくる予感を感じさせた放送でした。

島津亜矢「お吉」

【島津亜矢のブログから】
先日、歌謡コンサートに出させていただきました☻ご覧くださいましたでしょうか?^_^セリフ入りの歌をしかもフルで歌わせていただけるなんて、本当に嬉しかったです^_^
ファンの皆さんのあつ〜い掛け声が心にビンビン響いて;_;本当に力をいただきました^_^ありがとうございます(≧∇≦)今日はBS日本のうたで新潟は南魚沼市に伺ってます^ ^
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フィレオ― : URL 「島津亜矢」

2013.10.20 Sun 13:35

「お吉」 私もテレビ放送有る前に 「勢揃い!島津亜矢 名作歌謡劇場」
CD買いました。 何回も聞いてカリスマのある歌手だと思っていましたが、
そうです。
前説が有って、スポットライト、舞台正面、姫がお立ちになられて、
かっこいい! 私はミーハーでは無いと思っていましたが、どうやらミーハー
になってしまいました。

お説と同じですが、私の受けた印象。
姫様はだんとつの存在感がある。 正に島津亜矢独り舞台でしたね。
大変良い(島津亜矢ファン)文章ですが、字が、小さく薄い・・・。
沢山の方に読んでもらいたいので、その点ご配慮願います。島津亜矢
「お吉」 素晴らしい!

tunehiko : URL ありがとうございます。

Edit  2013.10.20 Sun 17:49

いつもご訪問、そしてコメントをいただき、ありがとうございます。
11月5日の「BS日本のうた」では「与作」と「一本刀土俵入り」を歌われるようですが、とても楽しみですね。
このブログのデザインですが、FC2の中のテンプレートのままで使っていまして、変更しないままになっています。
コンピューターによっては字が薄く、また小さいというご指摘をうけます。
自分で直せるか自身がないのですが、ご意見をいただきましたので、チャレンジしてみます。

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