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2013.04.20 Sat 鳥羽一郎と島津亜矢「BS日本のうた」3-2

 そして、ラストソングは北島三郎の「風雪ながれ旅」を2人で歌いました。
 この曲は初代高橋竹三の自伝を読み、感動した星野哲郎が作詞したというエピソードが残っています。高橋竹三は幼少の時麻疹の後遺症で盲目になり、門付から世界の大きな舞台に立った津軽三味線奏者でした。
 この大地や荒野、巷や路地から生まれ、日々の暮らしや人生とともに流れる歌をつくってきた星野哲郎は、17才の盲目の少年が門口にゴザを敷き、風雪の中で三味線を弾くことで命をつないだ高橋竹山の壮絶な人生に、自らの歌謡詩のルーツを思い起こしたのではないでしょうか。
 一方、作曲家・船村徹もまた若き日の作詞家・高野公男との友情と26才で急逝した高野公男との別れから1年後にまだ無名だった星野哲郎と出会い、高野公男とめざした大衆音楽への見果てぬ夢を追いかけ、数多くの曲を共に作り続けてきました。
 彼にとっても「風雪ながれ旅」は、星野哲郎との友情がひとつの大きな結実をもたらした歌であったことでしょう。「高野公男がいなかったら作曲家・船村徹はいなかった」と船村徹が言い、「船村徹さんがいなかったら作詞家のわたしはいなかった」という星野哲郎…。船村徹を蝶番にしてこの3人はほんとうに奇跡と言っていい運命的な出会いをして、戦後の歌謡曲をこんなにも豊かにしてくれたのですね。
 「俺が茨城弁で詩をつくるから、お前は栃木弁で作曲してくれ」と高野公男が言った言葉は、「いまや人生を語るのは方言しか残っていない」と言った寺山修司を思い出し、1950年代後半、人々も世の中も東京へ東京へと流れて行くのに抗う高野公男の思想を感じ、いままさにその思想が日本人に必要なのかも知れません。
 ともあれ、星野哲郎の歌詞がすでに船村徹の曲を連想させ、船村徹の曲自体が星野哲郎の言葉を語るように、「風雪ながれ旅」は津軽三味線が風と雪を誘うように流れ大地を這い、高橋竹三の凍える指から血がしたたり落ちるような鬼気せまる名曲にまちがいありません。
 島津亜矢はこの歌に限らず北島三郎の歌をよく歌っていますが、その中でも「風雪ながれ旅」は最高のカバー曲のひとつだと思います。
 そして、わたしが島津亜矢を大好きな一番の理由は、歌のうまさや声量や天賦の声質などはもちろんのこと、それ以前にスタジオやお座敷やダウンロードできるスマートフォンや携帯電話の中がふさわしい歌ではなく、大地や荒野や森や山や海の果てから聴こえてくる肉声を持っているからです。
 以前紹介した坂本龍一の「スコラ-音楽の学校」でアフリカ音楽を取り上げた時も、門付のようなものが取り上げられていました。世界のあらゆる場所であらゆる時代に、村落の神事や祭りや生活から誰もが歌うことから、歌うことで生活するひとびと、歌うことでしか生きることができないひとびとが現れ、芝居などと同じようにそれを職業するひとびとによる大衆芸能が生まれたといいます。
 彼女たち彼たちの存在は一般的な生活者とは離れた場所にあり、一方で差別の対象になり、また一方で憧れの対象ともなってきました。
 今は差別語らしいですが「河原乞食」というように、彼女たち彼たちの歌の生まれる場所は大地や海であり、歌う場所もまた大地や海辺でありました。そこではマイクを通したものではなく、肉声のみが歌を支えていたのだと思います。肉声には声や音だけではなく、歌う場所の風景があり、においがあります。
 スピーカーを通した音楽がいつもながれ、鳥の声や風の合唱などがかき消されてしまうように、人間の肉声のありかもわからない今こそ、わたしたちは肉声の歌、肉声の言葉を必要としているのかもしれません。
 島津亜矢の歌はそんなわたしたちに肉声のすばらしさ思い出させてくれるのです。その意味でも彼女が全国のいろいろな場所に出向き、客席のお客さんと握手し、走るようにまわりながら決して音程をずらさないパフォーマンスは大衆芸能の極みでもあり、マイクを使っていても肉声のありかを教えてくれます。
 ですから、高橋竹三をモデルにしたこの名曲は、彼女にぴったりの歌だと思います。もちろん、彼女は高橋竹三のような血のにじむ苦難を経験していないかもしれません。しかしながら少なくとも歌うことでしか生きられない道を選び、全国津々浦々のそんなに大きくはない会館をまわり、昼夜2回、よりお客さんの顔が見えるところで自分の芸を磨く彼女は、その振り袖姿もふくめて大衆芸能の歌姫でありつづけることはまちがいありません。
 そんなわけで、あんなに素晴らしいステージを観ても、いや観てしまった以上、やはりライブに行かないと彼女の歌の世界を知ることはできないと思ってしまうのです。
 彼女ほど、最初の印象や表面的な印象がくつがえされる歌手はいませんので、行くたびにいい意味で裏切られてしまうのですが、たしか秋に大阪に来るはずなので、わたしの場合はその時まで待つしかないと思っています。今回のコンサートでは、あの「山河」を歌っていると聞き、心は急ぎますが…。もしかするとその流れで、これからの「BS日本のうた」のスペシャルステージで島津亜矢と…。

島津亜矢「風雪ながれ旅」

北島三郎「風雪ながれ旅」

船村徹「「風雪ながれ旅」

2012年2月27日のブログ 星野哲郎と島津亜矢「昭和の歌人たち・星野哲郎」
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