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2013.03.03 Sun 恋する半島・島津亜矢「釜山港へ帰れ」

 島津亜矢の新歌舞伎座座長公演のため、このブログはどうしても島津亜矢特集になってしまいますが、島津亜矢のファンでない方にもご一読いただければと願っています。
 座長公演ですが、ファンの方々は毎日と言っていいほど行かれている方も多く、深い思いに敬意を表します。わたしも今回はじめて20日につづき、3月4日の最終日にも行くことにしました。この公演を通して、彼女がまた大きな一歩を踏み出したことはまちがいなく、今年のコンサートツアーは今まで以上に楽しみになりました。
 明後日にせまった千秋楽を前に落ち着かないのですが、今日は「BS日本のうた7」に収録されている「釜山港へ帰れ」について書きたいと思います。
今また竹島問題で韓国との間がぎくしゃくし、先日の北朝鮮の核実験が東アジアの地域をきな臭くしている時期ですが、あえてこの歌について思うことを書いてみます。

 わたしがこの歌を最初に聞いたのはチョー・ヨンピルの歌で、彼のカセットをだれかから預かっていた友人から買いました。その中に「釜山港へ帰れ」が入っていて、韓国では空前のヒット曲だと知りました。日本でも多くの歌手がカバーをしましたが、やはり渥美二郎のカバーがもっともヒットしたと記憶しています。
 韓国第2の大都市である釜山は日本との交流の中で発展してきた町で、日本が朝鮮を支配したことによって、大都市となる基盤が築かれたという皮肉な歴史を負った町だといえます。そのこととつながって、多くの在日朝鮮人が釜山港から日本に渡ってきた人とその子孫であるという歴史も持っています。
 「釜山港へ帰れ」は日本では恋人同士の別れを歌う歌詞となっていますが、原詩では離れ離れになった兄弟への思いを歌っていて、それはまた北と南に引き裂かれた朝鮮半島の痛みとも読み取れ、この歌の本当の意味を日本では単なる恋の歌にしてしまったという人もいました。わたしもまた、長い間そう思っていました。
 ところが2004年、この歌が実は盗作で、本当の歌詞は日本語の歌と同じで、別れた恋人への心情を歌っていたのだと聴き、とても複雑な想いを持ちました。そして、歌の成り立ちと流れ行く道筋にまつわるエピソードが歌以上にドラマチックであることを、あらためて知ったのでした。
 北と南の分断も、いまだに清算できない日本の朝鮮支配の暗い歴史も、釜山から日本へと海を渡ってきた多くの人々の心情も映しながらも、やはりこの歌は切ない恋の歌として、とびぬけた名曲だとわたしは思います。政治的なメッセージがあったとしても、生身の人間の切ない心を通り抜けてこそ多くの人の心に届くのだと、この歌は教えてくれました。
 そういう例は他にもあり、有名なのはもうずいぶん前にNHKの番組「世紀を刻んだ歌」で取り上げられたビートルズの「ヘイ・ジュード」があります。1968年、ジョン・レノンと前妻のシンシアが別れることになり、悲しむ息子のジュリアンを励ますためにポール・マッカートニーがつくったこの歌は、チェコのプラハの春をソ連の侵攻によって絶たれたチェコで、当時アイドル歌手だったマルタ・クビショヴァによって自由と解放を願う歌となりました。そして1989年に強権国家が崩壊するまでの20年間、「ヘイ・ジュード」は民主化運動のシンボルとして、ひそかに歌い継がれてきたというものです。
 歌が誕生する場所も時代も人々の想いもちがいますが、島津亜矢の「釜山港へ帰れ」を聴いていると、このエピソードを思い出します。

 島津亜矢が一昔前の歌を歌うと、その時代を実際には知らないはずなのに歌が生まれた時代の景色と空気感がくっきりとよみがえることは、すでに多くの方が感じておられることでしょう。「哀愁列車」や、今回の座長公演で歌う「名月赤城山」など、どの歌もつい昨日のことのようにその時代とひとびとの心をよみがえらせる島津亜矢。 なぜそんなことができるのかと考えると、彼女がひとつひとつの歌を全身全霊で受け止め、その歌の誕生の地をたずねる想像力を持っているからだと思うのです。
 海をへだてた大陸ともうひとつの大陸は、かつてひとつだったものが引き裂かれたのだと聞いたことがあります。もしそれが真実なら、半島はいつも海をみつめ、遠く別れてしまった大地やそこに住む人々への片思いを持ち続けているのかも知れません。いや半島に限らず日本のように海に囲まれた島の暮らしや歴史、文化もまた、遠い海の彼方への恋そのものなのかも知れません。そして、引き裂かれることによって誰かを想い、自分もまたここで待っているよと伝えようとするとき、わたしたち人間は歌うことをおぼえたのだと思います。
 島津亜矢が歌う「釜山港へ帰れ」には、大地の果てから海の果てまで、海の果てから心の果てまでと、切なくも遠く届かぬ想いをそれでも届けようとする、静かな決意と強い意志を感じるのです。

 
 歌舞伎座座長公演もあと少しになりました。最終日の一回公演では、もしかすると昨年のようにアンコールがあるかも知れません。とても楽しみです。

島津亜矢「釜山港へ帰れ」

チョー・ヨンピル「釜山港へ帰れ」

渥美二郎「釜山港へ帰れ」
島津亜矢のファンになってから、なぜかこの人がとても気になるようになりました。
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株の勉強 : URL

2013.04.24 Wed 00:05

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!

tunehiko : URL ありがとうございます。

2013.04.28 Sun 13:49

ご訪問ありがとうございます。
お礼がおそくなり、もうしわけありません。
今後ともよろしくお願いします。

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