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2011.08.18 Thu 島津亜矢の「俵星玄蕃」2006年リサイタル

 ごめんなさい。またまた島津亜矢さんのファンの方にお詫びしなければなりません。
 わたしは2009年リサイタルのDVDやNHKの放送などで彼女が歌う「元禄名槍譜 俵星玄蕃」を聴いて、この歌を歌うにはまだ彼女が若いとブログに書いてしまいました。
 三波春夫でなければ表現できないと思われた浪曲歌謡を、いわゆるカバーとはもっともほど遠い地平で自分の歌にして完璧に表現できる歌手は島津亜矢以外にいないことはだれもが認めるところでしょう。これらの名作を継承する覚悟というか心意気もさることながら、それに裏付けられる並外れた歌唱力と伸びのある透き通る声を総動員し、彼女の持ち歌にしてしまうパフォーマンスに酔いしれてしまいます。
 それでも、実は「元禄名槍譜 俵星玄蕃」だけにはどこか違和感を感じていました。それが何なのかと考えてみると、俵星玄蕃は槍の名手として円熟した技量の持ち主であるだけでなく人生経験も豊かで、武士の情けと意気に感じる達人のように思っていたからでした。もし そうなら、三波春夫の「おお、蕎麦屋か」に太刀打ちするのは容易なことではなく、島津亜矢の俵星玄蕃がもう少し年を重ねてより円熟味が深まるのを待つしかないと思っていたのでした。
 むしろ、島津亜矢が歌う男はいわゆるただ強いだけでなく、純情であるために傷つき、ひとを傷つけてしまうことでまた傷ついてしまう青年、わかってもらえるはずもない純な気持ちを心の奥深くにたたみ、殺伐とした世間を生きるしかない青年、デリケートで感じやすい青春を一瞬熱く染める恋をかくしてまた旅に出る孤独な青年だと思います。「瞼の母」、「一本刀土俵入り」、「関の弥太っぺ」、そして「大利根無情」など、もう少し違う人生を送ることもできたかも知れないのに身を滅ぼしてでも純粋で不器用な生き方を選ばざるをえない青年だと思っています。島津亜矢がこれらの歌を歌うと、「勝手にしやがれ」のジャン・ポール・ベルモンドや、「昭和残侠伝」の高倉健や「ブエノスアイレス」のレスリー・チャンを思いだしてしまうのです。

 島津亜矢2006年リサイタル連理のDVDをもう何回観たことでしょう。このリサイタルを生でごらんになった方はほんとうにうらやましいです。5年前の島津亜矢ですからまだ35才にしてこんなにも豊かで深みのある表現力で、あるときは激しく、あるときは悲しく、あるときはせつなく歌い、その立ち振る舞いは歌が彼女の体をつらぬくようになまめかしく、とても美しいのです。
 このリサイタルで歌われた「俵星玄蕃」は、それ以外で聴くそれとずいぶんちがった印象を持ちました。このときの島津亜矢はどの歌を歌うときにもどこか歌が体に宿っていて、とても幸せな臨月をへて歌が誕生するのを目撃するかのような恍惚感を感じるのですが、とくに「俵星玄蕃」は見事な歌唱力でぐいぐい聴くものを魅了していきました。
 女浪曲師のように歌い上げる「俵星玄蕃」を聴いていて、わたしははっとしました。もしかすると俵星玄蕃はわたしがいままで思っていたような人物ではないのではないか。
 「槍はさびても」と歌われるように、すでに人生の絶頂期を過ぎ、道場ももう開店休業で、自分がやるべきだったことをやれないまま年を重ねてきたのではないでしょうか。もちろん人生の敗北者ではありませんが、どこかで「もうひとつの人生」への切ない渇望をあきらめざるを得ないことに一抹のさびしさを漂わせている、熟年の男だったのではないでしょうか。
 わたしの勝手な物語だとお叱りを受けるかも知れませんが、このときの島津亜矢の「俵星玄蕃」は、男の悲しみのようなものがにじんでいたようにわたしには思えたのです。そして「サク、サク、サク、サク、サク、サク、先生」と来た後の「蕎麦屋か」のせりふも、他の舞台とは違い、声を落としていて、そのために余計、俵星玄蕃自身の人生の影が垣間見えるようでした。ですから個人的にはこのときの「俵星玄蕃」がわたしは一番好きです。
 あっ、そうなのか、それならこの歌の主人公である俵星玄蕃も、島津亜矢が歌い続ける悲しい男そのもので、年齢の問題ではなく、わたしが俵星玄蕃の人物像のとらえ方がまちがっていただけなのだと思いました。
 そのことに気づかせてくれた島津亜矢は、ほんとうにすごい歌手だと思いました。そして反対に、島津亜矢を通してオリジナルの三波春夫の「俵星玄蕃」もより深く理解でき、心に響くようになりました。

 このリサイタルでは、「ロックン・ロール・ミュージック」や「海で一生終わりたかった」、そして、名作歌謡劇場「お吉」が圧巻でしたし、このリサイタルのどこをとっても島津亜矢の魅力がふつふつとあふれてきて、それらのことを書きたいと思うのですが、次回はゆめ風基金主催で開かれた、三波春夫さんと永六輔さんのイベントの思い出を書こうと思います。

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高城一徳 : URL 他にい

Edit  2012.01.03 Tue 01:59

今頃この歌を聞かせるは、この人しかいないじゃなあですか?それは、島津亜矢

tunehiko : URL コメントありがとうございました。

2012.01.03 Tue 08:32

高城一徳様
コメントありがとうございます。
年末の梅田芸術劇場のリサイタルでもこの歌をうたいましたが、とてもよかったです。

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