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2018.02.27 Tue 雪の静寂に影絵のように震える無垢な愛の歌。島津亜矢「雪の華」・うたコン

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 少し前になってしまいましたが、1月30日のNHK「うたコン」に島津亜矢が出演し、「雪の華」を歌いました。
 島津亜矢の歌を聴く楽しみのひとつは、彼女がまだ進化中で、同じ歌でもその進化の道のりが現在進行形で聴き分けられるところにあります。もちろん、その時々の体調や個々の状態で歌が変わるのは当たり前のことで、もっと時がたち年齢を重ねればどこかで衰えを感じる時が来るのも覚悟しなければならないのでしょう。
 しかしながら当面そんな心配は全くなく、未踏の高みに向かって一歩一歩彼女の歌が豊かに変わっていく様子をリアルタイムで見守る極上の楽しみはなにものにも代えがたく、彼女のファンであってよかったと思う瞬間でもあります。
 もちろん、オリジナルでもカバーでもその悦楽は変わらないのですが、世の中には何億以上の歌がうまれ、何年何十年もの間秘密の場所で眠っている歌たちを静かに、いとおしくよみがえらせるということでは、カバーの方がオリジナルよりもボーカリスト・島津亜矢の可能性が広がるのかもしれません。
 今回の「雪の華」は初めての歌唱のように思うのですが、数々のカバー曲の中でもとても刺激的な選曲だと思いました。昨年の紅白歌合戦の後の最初の出演なので、もしかすると紅白の歌唱曲だった「ローズ」かなと思ったのですが意外や意外の一曲で、島津亜矢がどう歌うのか、期待と興味も一段と膨らむ中での視聴でした。
 島津亜矢のカバーの歌唱はなによりも歌をどう詠むのか、その一点において失礼ながら他の歌い手さんとは違っています。彼女の場合、長い間その声量の豊かさのみを評価されてきたきらいがあり、またそれが批判的に見られたりしてきましたが、実はその頃すでに彼女はただ単に声がよく出るだけではもちろんなく、その声のレンジの広さと質感においてあまりにも他の歌い手さんとは全くレベルのちがう歌唱力をもっていました。
 ただ、あまりにもかけ離れた実力と、まだ演歌・歌謡曲のジャンルの中での歌唱であったたため、力強い「男歌」がよく似合う歌手としか理解されていなかったのだと思います。
 しかしながら、「現代演歌」が確立される1970年以前の歌謡曲にはクラシックの要素もジャズの要素も入ったものが多く、また野口雨情、北原白秋、西城八十をはじめとする日本の原風景を綴る作詞家や、中山新平にはじまり古賀政男、服部良一、万城目正など時代を彩る作曲家たちによって生まれ育ったそれらの歌謡曲は懐メロとかたづけてはいけない名曲ばかりです。日本古来の音楽と西洋音楽とが融合した大衆音楽は、戦前戦後の伝説的歌手たちによって血肉化され、時代の空気を吸い込み、吐き出しながら人々の心の奥に届いていったのだと思います。
 島津亜矢にとってそれらの歌との出会いはかけがえのないもので、歌を歌うのではなく、歌を詠み、歌に隠された物語を読み、イタコや瞽女のように口移し、口承による魂の叙事詩を語り継ぐ天命を得たのだと思います。
 実際、島津亜矢が「哀愁列車」や「船頭小唄」、「影を慕いて」などを歌うと、彼女が生まれるずっと前の歌なのに、歌が隠し持っている時代の記憶が解きほぐされ、歌でしか語れなかった言葉にならない切なさやかなしみ、恐れや不安、そして時代の地下水路を抜けた果てにあるはずの希望や夢がどっとあふれ出し、思わず涙が出てくるのです。
 さまざまな歌と出会い、歌い継ぐことで彼女の音楽的冒険は加速し、今ではJポップから洋楽にまでその冒険の荒野は広がりつづけ、その進化はとどまるところがありません。
 今回の「雪の華」も、島津亜矢の冒険心と探求心を駆り立てる一曲だと思います。

 「雪の華」は独特の雰囲気とミステリアスな風貌で我が道を行く中島美嘉が2003年、10枚目のシングルとして発表したヒット曲で、第45回日本レコード大賞金賞および作詩賞を受賞しました。たくさんの歌手がカバーしていますが、韓国でもドラマの主題歌に選ばれ、大ヒットしたようです。
 ドラマ好きのわたしは、2001年にフジテレビ系で放送された「傷だらけのラブソング」で彼女を知りました。この年のソニーのオーディションに合格した彼女はドラマのヒロイン女優のオーディションにもチャレンジし、3000人が参加したオーディションを勝ち抜いてヒロインに抜擢され、そこで制作されたのが「傷だらけのラブソング」でした。
 かつて売れっ子だった音楽プロデューサーがヒロインの彼女を歌手としてデビューさせる物語で、1971年に放映された五木寛之原作「なみだの河を振り返れ」のJポップ版のドラマでした。
 このドラマは中島美嘉の歌手デビューのメイキングとも言える設定で、彼女のデビュー曲「STAR」はこのドラマ主題歌でもあり、ドラマの中のデビュー曲でもありました。
 その頃から独特の個性が際立っていましたがデビュー曲から次々とヒット曲を出し、人気歌手になりました。声があまり出なくて歌唱力がないという意見もありますが、わたしは好きです。
 わたしのような年老いた男が言うのも変ですが、彼女の場合、歌はどこか遠く風の丘からヒューヒューと流れてきて、生きまどい恋まどう少女の可憐で繊細な心がもうひとつの心とつながることを願い、見守るものなのかもしれません。
 凍る夜空を見上げ、手をかざしながら遠い恋人や友だちを思い、思いあう少女(女性)たちの心情や心象風景を歌う中島美嘉は、安室奈美恵とはまたちがった立ち位置で圧倒的なシンパシーを持たれている歌手だと思います。
 さて、島津亜矢の「雪の華」ですが、中島美嘉とは正反対のあふれる声量を封印し、どこまでも降り続く雪が町の形も色もすべて純白に染めていく中で、愛する人との葛藤や行き違いや欲望までもが雪の白さに溶けていくさまを密やかに歌い上げました。
そろそろこの街に 君と近付ける季節がくる。
今年、最初の雪の華をふたり寄り添って
眺めているこの瞬間(とき)に 幸せがあふれだす
島津亜矢がポップスを歌うとき、どうしても「ザ・熱唱」が求められ、いかにもという名曲を歌い上げることが求められる中、「雪の華」は名曲ではありますが、雪の静寂に影絵のように震える恋心や、ただそばにいるだけでいいと思う無垢な愛の歌で、声量のコントロールをより深くよりか細く、歌い上げないで、心でつぶやくような歌唱を聴かせてくれました。
 ここしばらく、またまた島津亜矢が目をみはる進化を見せてくれる時が来ているのではないでしょうか。彼女の場合、ポップスで培った表現力が演歌・歌謡曲に生かされ、たとえば別の番組で歌った「悲しい酒」や、もういい加減聴き飽きたと思われる「柔」でさえ、もう一段の高みにまでわたしたちを連れて行ってくれるのでした。

島津亜矢「雪の華」 (Utacon 2018.01.30)
彼女にしては珍しく、おそらくのどの調子があまりよくなかったのか、歌い始めの低音がかすれ気味になりましたが、そんなことはこの歌のグレードとはまったく関係なく、この歌は島津亜矢の新しい可能性を大きく広げたとわたしは思います。
中島美嘉 『雪の華』
中島美嘉は2010年10月22日、両側耳管開放症の悪化を理由に歌手活動を休止しましたが、翌年の春に復帰したものの、この病気は治らないということで、耳の障害を抱えながら歌い続けています。そのこともあり、音程が外れているとか言われていますが、わたしはだからこそ、「耳のせいにしたくない」と覚悟をもって歌いつづけている彼女の潔さに敬服します。そして、歌唱力が群を抜く島津亜矢がそうであるように、歌はいわゆるうまいへたではなく、もっと人の心にかかわるもの、勇気や希望や夢など、すぐには役に立たないと思われるものなのに、それがなくては生きていけないと思ってしまう人生の伴走者なのだと思います。


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