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2017.12.24 Sun 2017年紅白の島津亜矢の歌唱曲は「The Rose」。実人生では報われず、愛と悲しみを歌うことでしか救済できなかったジャニスへの鎮魂歌。

島津亜矢「syinger3」

 紅白歌合戦の歌唱曲と歌唱順が発表され、島津亜矢はなんと「The Rose」を、前半のトリで歌うことになりました。
 今年の紅白は安室奈美恵と桑田佳祐の特別出演や、演歌では丘みどり、ポップスではエレファントカシマシ、竹原ピストル、三浦大知、SHISHAMO、WANIMA、Little Gree Monstar、TWICEなど、実力派や話題のアーティストが初出演することで、例年よりも盛り上がりが予想されます。
 井上陽水や松山千春など、NHKに望まれても紅白に出場しないアーテイストがほとんどいなくなり、若いひとたちにとってそれなりの特別な歌番組として認識されるようになり、「親が喜ぶ」といった感想が普通になってしまいました。
 それだけに若い人たちに圧倒的な人気があり、コンサートの動員力が半端ではない将来性のある若いミュージシャンの出演交渉がやりやすくなったところはあるかもしれません。特に今年はこれからの音楽シーンをけん引するJポップの若い才能が結集した感があります。
 紅白が他の音楽フェス番組と大きく違うのは、何といってもJポップのアーティストだけではなく、演歌・歌謡曲の歌手も結集するところにあります。そのため、音楽シーン全体から見れば人気があるとは言い難い歌唱力のある(?)演歌歌手か、いま流行りのJポップの歌手か、誰それが出演しないのになぜあの歌手が出演するのかと、この時ばかりは「公共放送」であることも要因となり、ほかの音楽フェス番組では問題にもならないことが議論されます。
 いま流行りの歌手といえば演歌歌手に比べて観客動員数が一桁どころか二桁三桁ちがうJポップの歌手だけでこの番組の出演総数をはるかに超えてしまいますが、わたしもふくめてNHKの音楽番組をよく見る中高年の視聴者が彼女たち彼たちの名前すら知らず、だからと言ってわたしもふくめて中高年の視聴者がすべて演歌好きでもなく、ポップスやロックのファンのひともたくさんいます。
 ですから、わたしの場合は普通に暮らしていたらまったく聴く機会がない若いアーティストの才能に触れる絶好の機会を提供してくれるという意味で、紅白はうれしい音楽番組なのです。
 それはさておき、島津亜矢のファンとしては、彼女自身もファンのためにも紅白出場を願っていることもあり、今年もなんとか出演を果たせたことは喜ばしいことではあります。以前にも書きましたが、NHKの音楽番組担当チームの中では演歌のジャンルでも世代交代を求めていて、その流れが一昨年、島津亜矢の14年ぶりの紅白出演につながったのですが、一方で数少ない演歌枠の中で、いつのまにか島津亜矢自身がベテランの域にあり、台頭してくる若手の歌い手さんにとってかわられる心配もあります。
 たとえば今回トリとなった石川さゆりや天童よしみが世代交代の波をかぶるような予想もありますが、わたしはこの二人はまだ当分出演が続くと思います。
 とくに石川さゆりはベテランにもかかわらず、絶えず音楽的冒険を続けていて、ポップス系のアーティストからの楽曲提供やコラボも高い評価を得ています。
 もちろん、今回の歌唱曲「津軽海峡冬景色」は阿久悠没後10年ということや、この歌が演歌にありがちだった耐え忍ぶ女性像から脱出し、自立した女性像を打ち出した楽曲の一つであることなどを思うと、彼女にはポップスもふくめて数々の名曲がありながらも、この歌を歌うミッションを感じていると思います。
 ですから、島津亜矢の立ち位置はわたしたちファンが思うよりは危いところにあると思うのです。ファンの願望としては島津亜矢が演歌枠ではなくポップス枠でもない実力派の歌手として選ばれたと思いたいのですが、ポップス系はすそ野が広く、歌唱力のある歌手はたくさんいますから、やはり演歌枠の中で「ポップスを歌える演歌歌手」という希少価値が認められて選ばれたのだとわたしは思います。
 事実、今年の島津亜矢はTBSのJポップ系の番組に出演し、高い評価を得ました。そのことはずいぶん前から彼女のポップスの歌唱力を高く評価してきたNHKの音楽番組チームにとってもうれしいことであったのかもしれません。さらに言えば、島津亜矢のポップスの歌唱をずっと前から評価してきたのはNHKであるという自負もあるかもしれません。
 ともあれ、紅白のハイライトとは縁がなく、番宣の番組への出演もない島津亜矢を心密やかに熱烈に応援するNHKのスタッフが確実にいるということでしょう。今年の島津亜矢の歌唱曲「The Rose」は、そんな思いが積み重なって選ばれたのだと思います。
 「ローズ」は1979年のアメリカ映画「The Rose」の主題歌です。映画「The Rose」はジャニス・ジョプリンがモデルとなっていて、ベトナム戦時中の60年代、アメリカを舞台に、酒と麻薬に溺れながらも歌いつづけた女性ロック・シンガー、ローズの愛と激情の人生を描いています。主演したベット・ミドラーが歌った「The Rose」はゴールデングローブ賞やグラミー賞も受賞するなど、大ヒットしました。
 また、時代を越えて多くのアーティストによってカバーされており、日本ではジブリ映画「おもひでぽろぽろ」の主題歌として、この映画の監督・高畑勲の訳詩で都はるみが歌った「愛は花、君はその種子」というタイトルのカバー曲もつくられました。
 2015年にはTBS系金曜ドラマ「アルジャーノンに花束を」の主題歌として原曲が使われ、話題になりました。
今回の歌唱はおそらく「SINGER3」に収録した英語の原曲を歌うことになると思うのですが、「 I Will Always Love You」のような声量を活かした名曲調ではなく、静かに語りかけるように愛を歌うロックバラードは心に少しずつしみこんでいくようです。
 演歌にしろポップスにしろ、島津亜矢は声量を抑え、聴く者の心のなかに歌の残像と記憶を残すことを学んでから表現の幅が広がりましたが、まさにこの歌はその表現力がなければ歌にならない難しい曲だと思います。
 ジャニス・ジョプリンをモデルにして、主人公のローズがたどる酒とドラッグと歌の人生を描いた映画が終わり、その余韻を残しながら流れるこの歌はそのままジャニスへの鎮魂歌で、子供の頃から歌うことを宿命とした島津亜矢にとっても自分の人生と重ね合わせ、身につまされるところもあるのではないでしょうか。
 華やかでにぎやかな中でこの歌を島津亜矢が歌い始めると、会場が少しシーンとなることでしょう。前半のトリという歌唱順は、そのことにも配慮した演出ではないでしょうか。

島津亜矢「The Rose」

ベット・ミドラー「The Rose」 (歌詞字幕)

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