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2016.04.30 Sat 島津亜矢「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」・木八特別番組

島津亜矢「SINGER2」

 4月28日、東京テレビ系で特別番組「木8」があり、島津亜矢が松田聖子の「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」を歌いました。
 この番組は金曜日の7時と時間帯が変わり、「金7」という愛称になったのですが、この日はゴールデンウィーク前の週末であることと、熊本地震の被災障害者を支援する特別企画としてこの日に放送されたのだと思います。
 熊本出身の歌手が集結、コメントともに故郷の再生を願って熱唱しました。東日本大震災の時はもう少し時がたってから最初は恐る恐るこういう番組が始まり、それから堰を切ったように何度も何度も「歌の力」を強調される音楽番組や、歌手が被災地をはげましに訪れ、被災地の人々に反対に励まされたというコメントで終わるドキュメンタリーの番組がたくさんありました。
 わたしはひねくれた性格で、こういう番組に少し辟易してしまうところがありますが、家をなくし、困難な避難生活を耐えている被災地の人々にとってひとときでも心が安らいだり、今日明日を生きていこうという希望を育てるために、歌に力があることもまたまちがいないことなのでしょう。
 さて、今回の番組はあの時にくらべて少しフットワークが軽すぎるきらいはあるものの、熊本人や九州人の底力を信じる出演者の思いが伝わり、この番組の構成・演出が苦手な私ですが、今回ばかりはよくも悪くもバラエティ化された演出が出演者をリラックスさせたようです。もっとも、被災地の現実はまだ「歌の力」どころではないのではないかと心配ですが…。

 島津亜矢の「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」はカバー曲としてはよく歌う歌ですが、さすがの熱唱ではじめて聴く方はびっくりされたのではないでしょうか。ド演歌からJポップ、はては洋楽まで、彼女のレンジの広い才能が少しずつ多くの方々に認められるようになってきましたが、松田聖子のカバーは彼女のもっとも得意とするものだとわたしは思います。松田聖子はアイドルであったために見過ごされることもありますが、Jポップのボーカリストとして高く評価されています。一部に昨年の紅白のトリがふさわしくないなどと言われましたが、それは昨年の紅白がセルフカバーを中心に構成されたためで、紅白とは無関係に彼女の歌手としての実力は相当なものだとわたしは思っています。
 島津亜矢はかたい柔らかいはあるものの、透明で高い声質とのびやかな歌唱がよく似ていて、カバーでありながら松田聖子の世界をより広げた歌になっていると思います。
 言うまでもなく松田聖子は1980年代を代表するアイドル歌手です。1980年に、「裸足の季節」でレコードデビュー後、次々とヒット曲を連発。トレードマークであったヘアスタイルの「聖子ちゃんカット」や「ぶりっ子」など、社会現象にまでなりました。
 彼女をスーパーアイドルにまで押し上げた功労者は松本隆で、彼は後のJポップへとつづく1980年代の脱歌謡曲・演歌の先鋒として、松田聖子を中心とするアイドルポップスをJポップへとソフトランディングさせました。
 よくも悪くもまだ色濃く歌謡曲のジャンルの中にいた山口百恵など70年代アイドルの後、衝撃的なデビューを果たした松田聖子は、作詞者としてだけではなく松本隆のプロデュースによって財津和夫、「呉田軽穂」名義の松任谷由実、細野晴臣などの作曲による新しいポップスを引っさげた80年代アイドルのトップスターへと駆け上がったのでした。
 不思議な巡り合わせですが、70年代に阿久悠が切り開こうとした「新しい歌謡曲」は彼と最後まで縁がなかった山口百恵の引退によって消滅し、その灰神楽から彗星のように現れた松田聖子という女神に奉仕する様に、松本隆は「新しいポップス」からJポップを誕生させたのでした。
 わたしはそのころ中森明菜派でしたから、どうも松田聖子の涙の出ない泣き方など、「ぶりっ子」ぶりが苦手でしたが、後から振り返るとこの時代に松本隆が世に送り出した歌は阿久悠と匹敵するものがあり、2人とも単なる作詞とはいいがたく、アイドルを巫女にして日本の大衆音楽シーンに革命を起こしただけでなく、時代を変えようとする強い意志が感じられます。「青い珊瑚礁」、「風立ちぬ」、「赤いスイートピー」、「SWEET MEMORIES」などの名曲は後世に歌い継がれていくことでしょう。
 結婚、出産、2度に亘る離婚、数度の不倫スキャンダルなどをものともせず、それらを経てもなお、「アイドル」と呼ばれ続けた松田聖子は、反感と同時に信奉もあつめ、その「松田聖子的生き方」が数多くの女性たちの憧れの対象ともなりました。それに対して中森明菜は私生活のスキャンダルによって歌手としても人間としてもずたずたにされた感があり、ほんとうに気の毒だと思います。
 松田聖子が時代に愛された女だとしたら、中森明菜は時代に抱かれた女で、時代に捨てられるストーリーに落とされ、何度かの復活も確固としたものになりえないところがまた、わたしが今でも彼女が好きな理由の一つです。
 島津亜矢はといえば、時代が片思いするジャンヌダルク、孤高の歌姫というのがぴったりで、彼女の音楽的な才能がひとつのジャンルに押し込められないために、「未完の大器」としていまだに進化し続けています。このままいけばとんでもなく遠くにまで音楽の荒野を突き進むのか、どこかで力尽きてしまわないのかと不安に思うこともあります。
 それはさておき、松田聖子自身が作詩した「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」は、アイドルから脱皮し、大人の女性として私生活でも音楽的にも自分らしく生きていこうとする彼女の人生と重なり、最大のヒット曲になりました。シンガー・ソングライター、プロデューサーとしての活動を後押ししたこの歌は、それまでわたしが持っていたアイドルとしての彼女ではなく、自分らしく生きていこうとする「柔らかい覚悟」が隠れています。
 この時まだ40才になっていない彼女の成熟した女性のきめ細やかな感情表現に、ボーカリストとしての彼女の大きな才能をあらためて感じますが、島津亜矢もまたアイドル時代の松田聖子のカバーとはまったくちがい、自立した女性の、それでもかすかに残る未練ごころを心のひだで遊ばせながらゆっくり一歩前に歩こうとする大人の女性の潔くもせつなくか細い心情を見事にすくい上げた歌にしています。
 この日の歌は多少元気が良すぎたのかなと思いますが、熊本の応援ということで力が入ってしまうのは仕方がないことで、それはそれでよかったのだと思います。

松田聖子「あなたに逢いたくて ~Missing You~」

島津亜矢「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」


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