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2016.02.29 Mon 島津亜矢・姿月あさと「元宝塚歌人と演歌の至宝が交錯するデュオ」

島津亜矢・姿月あさと

 2月28日、29日の2日間、島津亜矢は元宝塚宙組の初代トップスター・姿月あさととのコラボレーション・コンサートに出演しました。
 「薔薇とシンフォニー〈特別企画〉贅沢な歌の時間と空間~Time and of a luxurious song~」と名付けられたこのコンサートは元宝塚スターたちのコンサートなどを定期的に企画する「薔薇とシンフォニー」の特別企画として、宝塚サイドの呼びかけで実現したものと思います。

 1970年3月、大阪市で生まれた姿月あさと、その1年後の同じく3月、熊本市で生まれた島津亜矢。70年代の音楽を聴いて、同世代を過ごしてきた2人には、それぞれ信じていた「歌の世界」があった。
 1人は宝塚歌劇団でトップスターを飾り、退団後もファンを魅了し続け、1人は演歌を極め、その歌声を聴く人々に歓びを与えている。
 そして2016年早春、ジャンルも領域もまったく違う世界で羽ばたく2人が異色のコラボを実現。まさに贅沢としか言いようのないその時間と空間を、じっくり味わってみてはいかがでしょうか。元宝塚歌人と演歌の至宝が交錯するデュオ

 とチラシにも書いてあるように「異色の組み合わせ」と期待が高まる一方、内実それぞれのファンには少しの不安がないまぜになっていた感があったのではないでしょうか。
 しかしながらこのコンサートに行かれた方の感想ではそんな心配はまったくなく、とても楽しいステージとなったようです。大阪であれば飛んでいきたいところですが、東京の六本木の会場までは今の状況ではいくとはできず、とても残念です。
 観てもいないのにこのコンサートのことを書くのは乱暴かも知れないですが、わたしはこの2人の共演が異色とは思えなくて、そのことについて少し書いてみたいと思います。
 ひとつは以前に書きましたように2013年の新歌舞伎座での座長公演の第二部・「島津亜矢オンステージ」を構成・演出したのが宝塚のベテラン演出家・坂井澄夫氏だったことや、演歌歌手でありながらポップスシーンでも歌唱力を究めるだけでなく、独自の演劇性を獲得しつつある島津亜矢に、宝塚の「物語」世界との接点を見出したプロデューサーがいたはずです。
 一方姿月あさとは宝塚の中でもトップレベルといわれた歌唱力と、ヴィジュアルはもちろんのこと、長身をいかしたダンス、伸びやかなアルトの美声と、お芝居・ダンス・歌唱力の3拍子揃った実力派トップスターとして、ファンならずとも多くの人々を魅了しました。初代の宙組トップスターで抜群の人気があったにもかかわらず、2年ほどで惜しまれながら宝塚を退団し、その後も歌手としてまた舞台俳優としてエンターテイメントの最先端で活躍してきました。
 わたしは宝塚を見たことは一度程度ですが、「宝塚少女歌劇団」という名前だったように、女性だけの劇団でトップスターが男役であることや、1913年に宝塚新温泉の閉鎖した室内プールを利用して温泉場の余興としてはじまったこと、そしてアメリカからやってきたミュージカルとはちがい、フランスの「レビュー」を出自としています。
 わたしは唐十郎のファンですが、唐十郎の芝居と宝塚とはまるでかけ離れているようで、実はとてもよく似ていると思っています。小さなテント小屋で目まぐるしく早口のセリフ回しで深くて切ない芝居空間をつくりあげ、一瞬のうちに夜の闇に紛れ込み、役者も芝居小屋も観客も行方不明になってしまう唐の芝居には、女優が男を演じるだけでなく男優が女を演じるのもごくごく普通のことでした。
 その中でも李麗仙が主役を演じていたころ、宝塚と見間違えるほどの「男装の麗人」で、一時は彼女のセクシーな声を聴くだけでも満足できる時代もありました。
 女優が男を演じる場合、低い声が肉感的でぞくぞくとするほど名演だと思うのですが、宝塚のトップスターは男役としてそれが宿命づけられています。姿月あさとのアルトはその意味においても絶品だと思います。
 島津亜矢はどうでしょう。もともとは高音が持ち前の彼女ですが、とくにここ数年のセクシーな低音は新しい魅力となっていますし、若い時から歌いつづけてきた「男歌」の歌唱も、姿月あさとに負けず劣らずで、その意味でこのふたりはとても共通していると思います。姿月あさとも歌謡曲に近いポップスを歌っているので、デュエットはかなりの厚みのあるものになったのではないかと想像します。
 また、島津亜矢が全国津々浦々で歌いつづけることで固有のファンを獲得してきたように、宝塚は一般的な演劇ファンではなく、独自のファン層を開拓し、どちらも「共に育っていく」形で舞台をつくりあげてきたことも良く似ていると思います。その意味では秋元康が唐十郎などの当時アングラと呼ばれたテント芝居をヒントにして秋葉原に小さな劇場をつくり、AKB48をファンとともにつくりあげてきたこともまた、宝塚をまねたものと言えるかもしれません。
 島津亜矢の場合はそのコンセプトをより手作りでつくりあげてきたことを誇りとしていいと思います。

 どちらかというと島津亜矢がゲストとして姿月あさとの世界に歩み寄る演出なのかと思っていたのですが、コンサートに行かれた方が教えてくれた楽曲リストを見ると反対で、姿月あさとの方が島津亜矢のポップス・歌謡に歩み寄った形になっているようです。  わたしとしては少し残念で、姿月あさとの宝塚からつながる音楽の世界に島津亜矢が飛び込んだ方が素晴らしいコラボ効果で、稀有の歌唱力と表現力、演劇性とセクシーな声質が重なり、緊張感のある共振によって、滅多に現れない音楽の女神が降臨するように思えるのですが…。
 いまどき、アニメや宝塚でしか少女たちの大時代的な「革命」の物語はなく、島津亜矢の背景には唐十郎や大衆演劇を、姿月あさとの背景には19世紀のフランスを携えて、時代錯誤的な演劇性のある楽曲をデュエットしてほしいと思っていたのです。
 反対に姿月あさとの方が「天城越え」や「愛燦々」、「夜桜お七」を見事なアルトで歌い上げている姿が目に浮かびます。
 とはいえ、25曲以上にもおよぶポップス・歌謡曲・演歌の名曲を二人の才能あふれるディーバが共演したことは、そのステージの時間以上に多くの宝物を二人に与えたはずで、島津亜矢の場合はおそらく6月の座長公演でその果実をわたしたちに届けてくるにちがいありません。

姿月あさと(Zunko)& 井上芳雄「エリザベート」
姿月あさと(Zunko) メドレー
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