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2014.10.30 Thu 島津亜矢「感謝状~母へのメッセージ~」・10月28日の歌謡コンサート

 10月28日、NHK歌謡コンサートに島津亜矢が出演し、定番ともいえる「感謝状~母へのメッセージ~」を歌いました。10月7日の歌謡コンサートにも出演し、「帰らんちゃよか」を歌いましたから、島津亜矢のスケージュールとのかねあいや、彼女の出演を希望する人たちが少なからずいることからプロデュースされたのでしょう。
この番組でいっとき、美空ひばりの「柔」をよく歌っていた記憶がありますが、同じNHKのBS番組である「BS日本のうた」とはちがい、この番組の出演ではオリジナル曲の歌唱が望ましく、その中でも人気のあるこの2曲が歌われることが多いようです。ちなみに、昨年の9月3日の放送や、一昨年の9月11日の放送でも、この歌を歌っています。

 さて、今回歌った「感謝状~母へのメッセージ~」ですが、とても不思議な印象を受けました。わたしが今まで聴いていたこの歌とどこかがちがっていて、そのちがいがわたしの単なる勘ちがいなのか、それともたまたま今回の歌い方が少し変わっていたのか、さらにはこの歌に限らず、島津亜矢の歌唱が全般に変化したのか、ほんとうのところは素人のわたしにはわかりません。
 けれども、わたしはこの変化が島津亜矢の大いなる進化への道の一里塚になるのではないかと思ったのです。
 そこで、CDに録音されたもの、昨年、一昨年にこの番組で歌ったもの、さらには2012年2月26日の「昭和の歌人・星野哲郎」の番組で歌ったものと比べてみることにしました。もちろん、年に何度も行けないコンサートで生音で聴いた記憶もたどってみたのですが、ライブの独特の雰囲気の中ではその印象を思い出すことはできず、映像と収録でたしかめることにしたのでした。
 素人なりのわたしが感じたものは、専門的にはフレージングやアーティキュレーション、演歌のこぶしやしゃくりなど、楽譜に書かれていない音の連なりや区切り、それが歌手の個性や歌唱力へとつながっているようなのですが、それが今までの「感謝状」とはちがって聴こえたのでした。
 最初は、バックの演奏との微妙な遅れなのかとも思いましたが、彼女ほど楽曲に忠実に歌う歌手がいないことは誰もが認める所です。けれども微妙に節回しが細かくなり、フレーズの最後の歌詞の伸びから、とても深くて肉感的でやや重厚な歌になっているように感じました。しかも、その変化はデビュー曲の2曲「袴をはいた渡り鳥」と「出世坂」の初期録音にあるような、既成のコブシやしゃくりといえる演歌の「お約束」の歌唱ではまったくないのです。
 むしろ彼女は長い時を経て、演歌歌手でこれほど演歌の常識のテクニックをそぎ落としていいものかと思うぐらいナチュラルで透明感あふれる高音と、聴く者の心の壁と共振するような低音を獲得し、少し言葉が過ぎる表現でいえば「四畳半演歌」、「スマホの中の歌」、「音楽のための音楽」が蔓延する中で孤高にもはるか遠くの海の彼方でひとつの星、ひとつの空を見つめる「歌を必要とする心」に届く歌を歌い続けてきました。
 だからこそ、ポップスやジャズやブルースを歌っても、いわゆる「演歌歌手」の手慰みとは程遠い至高の音楽の泉にたどり着けたのだと思います。
 その彼女の新しい歌唱は、彼女のはるかなる旅にそろそろ音楽の女神がご褒美をくれたのではないかと思えるほど、複雑な感情を一音一言にたくみに乗せて、一人和音にきこえるほどの豊かで重層な歌唱力と、誤解を恐れずに言えば肉感的でエロチックな声とが絡み合い、ほんとうにぞくっとしました。
 この歌は一般的に受け入れられる歌詞とメロディーがほどよく調和されているものの、お約束のような家族像に裏付けられた歌で、ひねくれ者のわたしにはすこし苦手な歌でしたが、何度も聴いている内にこの歌もまた星野哲郎が最後の弟子・島津亜矢にプレゼントした演歌の王道を行く歌で、「歌は語るもの」という使い古された教訓を越え、語る歌から生きる歌へ、物語からドキュメンタリーへと島津亜矢を導いた貴重な歌に思えてきたのでした。
 事実、星野哲郎は島津亜矢自身から彼女の母親や家族の在り様の証言をとり、歌そのものが彼女の告白のような歌詞をつくりました。そのために、本来は歌手としてはあってはならないことですが、しばしばこの歌を歌うと島津亜矢は涙を隠しきれないのだと思います。
 わたしもまた、この歌を聴くたびに17年前の7月13日の朝、わたしの前から生きる気配を閉ざして旅立っていった母を思い出してしまうのです。
 早くに夫を亡くし、戦中戦後、ゆえあって妻子ある男と出会い、兄とわたしを生み、子どもの教育によくないと男と別れ、女手ひとつで育ててくれた母の背中には、お灸の跡がただれるぐらいに広がっていました。食べ物商売ならひもじい思いをしなくて良いと考え大衆食堂を切り盛りし、言い寄る男もいたでしょうし、ひそやかな恋心もかくしたこともあったかもしれないですが、ひたすら「子どもために」と人生のすべてをささげた母は、貧乏ながらもわたしたちふたりを高校まで行かせてくれました。
 今年のように台風が多いと、第二室戸台風が直撃した時、屋根に瓦もなく、杉の板一枚の壁には節目が取れて外が見えるバラックは暴風で風船玉のようにふくらみ、母娘3人が食堂のテーブルの上に乗り、はがれた屋根に残された細い梁にぶら下がってなんとか持ちこたえたことが昨日のようによみがえります。
 それほどまでに子どものためだけに生きた彼女の人生は、ほんとうに幸せだったのかと思うと、成人してからの親不孝の数々に身も細る思いです。今回の放送では、杉本真人が「吾亦紅」を歌いましたが、島津亜矢の「感謝状」とつながり、涙が出てしまいました。

 最近の歌謡コンサートは前回も大竹しのぶと山崎まさよしが出演し、今回の放送ではJUJUが登場しました。わたしはJポップスで島津亜矢に太刀打ちできる数少ない歌手としてJUJUを高く評価していました。「秋桜(コスモス)」を歌いましたが、さすがの歌の解釈と歌唱力には満足したのですが、この季節の夜は格別に寒かったのか、また要領のちがう番組の緊張もあったのか、声がとても出にくいようでした。それだけならいいのですが、友人から最近声が出ていないようだと聴きました。友人は「その点、島津亜矢はいつでも信じられないほどの声量で安定した歌を歌う珍しい歌手ですよね」と言いましたが、ほんとうにいつ聴いてもその時が最高のパフォーマンスでお客さんを裏切らないことが、ファンであるわたしの誇りでもあります。
 今回もびっくりしましたが、この歌い手さんはわたしたちをどこまで連れて行ってくれるのか、どこが頂きなのか見当がつかない大いなる進化への冒険に心が躍ります。

 アルバム「BS日本のうた」を買いました。まだ聴いていないのですが、曲目を見てもとても刺激的なアルバムのようで、楽しみは次の週末まで置いておこうと思います。「SINGER2」もずいぶん楽しませてもらいましたが、次回の島津亜矢のシリーズは新しいアルバムのことでいくつか書いてみようと思っています。

島津亜矢「感謝状~母へのメッセージ~」(2002.5.7)
12年前のみずみずしい歌声です。これはこれでとても癒される歌声です。

島津亜矢「感謝状~母へのメッセージ~ 」
これはいつの映像でしょうか。5年前ぐらいでしょうか。コンサートの場合は放送とは違い、フルコーラスで歌っていてかつライブ感にあふれています。会場のPA(音響)の具合もあり、また本人の感情の揺れもあるでしょうか、多少声が割れている感じもありますが、その分この歌のもっとも大切なところを表現されていると思います。彼女が声を詰まらせると、思わずこちらも泣けてきます。

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