ホーム > 2012年07月

2012.07.26 Thu 歌謡コンサートの島津亜矢

 NHK歌謡コンサートに島津亜矢が出演し、「一本釣り」を歌いました。
 昨年、阿久悠のアルバムの収録曲をすべて歌い、鬼気迫る歌唱力と巧みな演出でファンを驚かせたリサイタルから一年の間、コンサートや座長公演などのステージで恋慕海峡をはじめ、必ず歌ってきたこのアルバムは、ほんとうに島津亜矢の、そしてわたしたちの宝物になりました。「一本釣り」は最近シングルカットされた曲で、あらためて力を入れている曲でもあります。
 わたしは5月の座長公演になんとか一回参加した後、大阪柏原のコンサートを楽しみにしていたのですが台風で中止になり、しばらくはライブに行けないので、歌謡コンサートは8月の「BSにほんのうた」とともにとても楽しみにしていました。
 「BSにほんのうた」は収録日のもようをいろいろな方が報告されていて、それなりに期待がふくらんでくるですが、なんといっても「歌謡コンサート」は生放送なので、今日現在の島津亜矢を見られるのが楽しみです。

 さて、ごらんになった方もたくさんいらっしゃると思いますが、わたしが感じたことを書かせていただきます。
まずは、不思議なぐらいに年を重ねるほどかわいらしさを増す彼女ですが、昨日のステージはその中でも最高にかわいかったです。
 リサイタルやコンサートではたったひとりで舞台に立ち、いろいろな表情を見せてくれるのですが、歌謡コンサートではいつも先輩の歌手の後ろで控えめにしていて、歌が始まると迫力で歌いきる、というイメージで見られることが多かったと思います。ほんとうはそうではなく、短い時間に自分の歌を歌い伝えることの難しさを十分に知っている彼女ですから、豊かな歌唱力を道連れに濃密な歌の空間をつくりだしてきただけなのだと思うのですが…。
 そのことを承知していますが、それでも今回はいままでと違う島津亜矢を見られるはずだと思っていました。それはなんといっても5月の座長公演を成功させたことが、それ以後の島津亜矢を変えないはずはないと思ったからでした。そして、そんなわたしの期待などはるかに越えたしなやかさにつつまれた島津亜矢がいました。
 実際のところ島津亜矢の場合、古い曲になると20年以上も歌っているわけですが、いつ聴いてもその時が最高のパフォーマンスに思えるのです。もちろん生身の人間ですからその時の体調や精神的な好不調はつきものですから、「あの時のあのステージ」が最高だったということはあるかもしれませんが、わたしは年に数回しかコンサートに行けないのですが、そのすべてのステージでそのときの島津亜矢が最高ですし、その場に立ち会えた幸運をかみ締めています。
 反対に、その時その時のステージがいつも最高であるからこそ、たとえば最近、ファンの方がYouTubeで紹介されている2000年当時の映像を見ると完璧といえる歌唱力で、この時すでに歌手としての島津亜矢は完成していたことがよくわかります。記録というものはよくもわるくもとても残酷なもので、いまさら取り返しがつかない事実を後々まで証言してしまうのですが、島津亜矢の場合は後々まで残っても恥ずかしくない歌唱力と歌うことへの妥協を許さない厳しい努力、そして聴く者への可能な限りのサービス精神がどの時代の映像にも記録されています。

 今回の歌謡コンサートの島津亜矢を観て、このひとはいったいどこまで行くのだろうと、あらためて思いました。
 一年前のリサイタルのオープニング、最高の歌ごころでわたしたちの胸をかきたててくれた「一本釣り」が、まったく別の歌と思えるぐらい、ふくよかな肉感とやわらかな質感を持った新鮮な歌になっていました。
 先に書いたような歌謡コンサートでの気負いと思われるかもしれないある種の緊張から解き放たれ、立ち姿もしぐさも声のつやも自然体で、張り詰められたオーラではなく、やさしくて広くてしなやかなオーラに包まれたその歌は、潮のかおりと魚の光る背が見え隠れする沖から、いとおしいひとを想う恋心が急ぐ浜の風景をあざやかに描いていました。
 わたしは、この進化はやはり芝居を経験したからだと思うのです。
 これはわたしの独断と偏見として書かせていただきたいのですが、歌と芝居はずっと昔からひとびとの暮らしと時代の風景とともにありましたが、歌はどちらかというとモノローグで、その歌の背景や登場人物の想いをすべて歌い切ろうとします。島津亜矢は歌手の使命として、「歌い切る」ことへのあくなき努力をしてきたひとで、彼女が歌い切ることでうずもれていた数々の歌たちがどれだけよみがえったことでしょう。
 しかしながら、芝居では物語やその演劇空間をすべてひとりが語ってしまうのではなく、他者とともに物語や劇的空間を紡ぐダイアローグの表現が問われます。場合によっては自分の語る物語さえすべて語らず、別の人物に語らせる場合もあると思うのです。
 ですから、モノローグの世界では他の追随をゆるさないとびぬけた表現力を持った島津亜矢が本格的な芝居に挑戦することはとても大変なことだったのではないかと思います。
 けれども、そんな心配をあくなき探究心と努力ではねかえし、見事に初演を成功させた彼女はすでにダイアローグの表現力を身につけただけでなく、歌的空間から劇的空間へと自分の天才を鍛えることに成功したのだと思います。
 芝居の経験をしたからこそ、あんなにチャーミングに自分の姿をさらけることができたのでしょう。歌謡コンサートで、あんなにかわいい島津亜矢を見たのははじめてですし、最後の決めポーズも胸キュンものでした。
 たまらず、10月の滋賀のコンサートのチケットを申し込んでしまいました。
 ともかく、彼女の「大化け」はまだまだ限りなくあると確信し、その現場に少しでも立ち会いたいと思った「一本釣り」でした。

web拍手 by FC2
関連記事