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2011.09.30 Fri 島津亜矢「SINGER」

島津亜矢「SINGER」

 アルバム「悠悠~阿久 悠さんに褒められたくて~」を少しお休みし、ここ最近は島津亜矢のカバーアルバム「SINGER」を聴いています。
 島津亜矢のファンの方はもとより、このアルバムでポップスを歌う島津亜矢の歌唱力に、多くの方がびっくりされると思います。わたしもその一人です。
 いつもリサイタルでポップスを歌うコーナーがあるのですが、この時の彼女の衣装を長年のファンの方のように素直に「かわいい」と言うことができず、少しはずかしくなるのですが、演歌歌手の手慰みとはかけはなれた歌唱力を披露してくれます。
 
 このアルバムは、「BS日本の歌」などで歌った歌をレコーディングしたものが多いと聞きますが、アルバムをじっくり聴くとDVDとはまたちがい、ひとつひとつの歌がまるでリボンをかけて届けられた大切な贈り物のように思えるのです。
 演歌を歌う時の、胸をしめつけられような切なさと、心がさらわれるような胸騒ぎに満たされる歌声、圧倒的な説得力で日常から果てしなく遠くへ連れて行ってくれる歌声とはまったくちがう声で、島津亜矢はポップスを歌ってしまうのです。
 その声はどこまでも透き通っていて、とびぬけた声量はけっして無理な声の出し方ではありません。オペラ歌手は大きな声量を持ちながら小さな声を正確に、遠くにまで聴こえる声を出せるといいます。大声を張り上げなくとも、よく通る声を出せるのは、ひとつの調和のとれたハーモニーで、彼らは声をのどだけではなくお腹や胸、鼻孔にも響かせることによってハーモニーをつくるのだそうです。その声を出すために、一日に何時間もボイストレーニングをするそうです。わたしは合唱をしませんが、息子が大学の合唱団に入っていた頃、よく家で何時間も練習をしていて、練習をくりかえすうちに声が体中に響いているように聴こえてくるのです。
 島津亜矢も、きっと他人知れず努力をされているのだと思うのですが、ポップスを歌う時はほんとうにナチュラルというか、ニュートラルな声で、演歌を歌う時とはちがって聴く者をその柔らかくしなやかな声で包んでくれます。その上にあの歌唱力をもってすれば、彼女がどんな歌でも完璧に歌ってしまうことがあたりまえなのだと納得します。
 しかしながら、前にも書きましたがこんなに歌いきってしまうと、たしかに演歌もすばらしいけれどポップスを歌う彼女も捨てがたい才能で、歌のつくり手やプロデューサーにとってはなやましいことでしょうね。
 
 カバー曲の場合、特に彼女の場合はよく「オリジナルよりもいい」と言われたりする一方で、美空ひばりやちあきなおみ、そして三波春夫などの名曲を歌うと「オリジナルの歌心がない」とか言われたりします。
 カバー曲の場合、よくも悪くもオリジナルとくらべられることはいたしかたないのでしょう。けれども、わたしは、このアルバムに収録された曲がそれぞれのオリジナル歌手からはなれ、島津亜矢を通してひとつひとつの歌の歌詞やメロディーがよくわかるようになりました。それは、彼女が透き通った声でナチュラルに歌っているからで、オリジナルの歌手のそれぞれの個性というか、特徴をはぎ取った後の素裸の歌がダイレクトに届くからです。
ホイットニー・ヒューストンの「I WILL ALWAYS LOVE YOU」、中島みゆきの「地上の星」、「紅灯の海」、そして唯一島津亜矢の曲「想いで遊び」、松山千春の「恋」、谷村新司の「昴~すばる~」、ミュージカル「ラ・マンチャの男」から「見果てぬ夢」、エルビス・プレスリーの「監獄ロック」、中森明菜の「飾りじゃないのよ涙は」、岩崎宏美の「聖母たちのララバイ」、赤い鳥の「翼をください 」、坂本九の「上を向いて歩こう 」、秋川雅史の「千の風になって」、森山直太朗の「さくら(独唱)」、山口百恵の「秋桜」、喜納昌吉の「花~すべての人の心に花を~」。
 どの歌もすばらしいのですが、個人的には「紅灯の海」はオリジナルで聴いたことがなく、とてもいい歌ですね。島津亜矢は中島みゆきが好きで、そのぶん力が入りすぎる時があるように思うのですが、この歌はとてもよかったです。そして、驚いたのが「恋」で、島津亜矢が歌うと別れを決心した女性の微妙な心の揺れが伝わってきました。こんなふうに書いていくときりがないので、最後に島津亜矢自身の歌「想い出遊び」はとてもせつない女心を歌っていて大好きになりました。この贅沢なアルバムは、ファンならずともオススメです。

 世の中には巷にながれ、いつのまにかひとの記憶から消えて行った歌が無数にあります。夜空に散らばる星葛のように、それらの歌たちはまたいつかひとびとの手のひらで一瞬輝く時を待っているのかもしれません。そして島津亜矢はそんな歌たちを美しい声ですくい上げる女神なのかもしれません。ですから、このアルバムのような有名な曲ではなく、ほとんど顧みられなかった数々の歌を彼女の第二のオリジナル曲として、これからも歌っていってほしいと願わずにはいられません。
 と言いつつぼつぼつまた、わたしの心を「ここより他の場所」に連れて行ってくれる、島津亜矢の演歌を聴きたくなってきました。

島津亜矢「SINGER」はここから試聴できます。
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